14: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/08/02(日) 08:01:16.01 ID:dze2zfkn0
【3】
ズルズル。ズズズ。
ズズ。
決して尻で歩いている音ではない。麺を啜っている音である。
尻で歩く人間なんているわけがない。
貴音、エレナ、プロデューサーは撮影スタッフと共に蕎麦屋で舌鼓を打っていた。
蝉の鳴き声と渓流のせせらぎを聞きながら、風通しの良い木造のバルコニーで、岩魚と山菜の蕎麦を啜る。
なんと心地よいことだろうか。
外を見れば木漏れ日がチラチラと煌めき、岩にぶつかって弾ける飛沫(しぶき)が何とも涼しげである。
そんな中、撮影スタッフたちはプロデューサーと同じ席に座る二人の少女から目が離せずにいた。
決して美しい所作とは言えないが、ブラジルハーフの快活な女の子が美味しそうに麺を啜る姿は、見ているだけでこちらも幸せな気分になる。
啜った麺が口の中に吸い込まれていく瞬間に下唇がピンと張ると共に首がクッと持ち上がり、口を閉じたままでも十二分に伝わる笑顔の花が開く。恐おそらく今の彼女には「美味しい」「幸せ」以外の感情が無いのだろう。
自然と見ているこちらも同じ気持ちを共有できる。
そんな元気で可愛いハーフっ娘の隣にはピンと背筋を張り、凛々しいとも言える姿で蕎麦を食す銀髪の美女。
蕎麦を食べる姿に「凛々しい」という表現はこれまで使ったことが無かったが、とにかく凛々しいのである。
通常は食事中に音を立てることはマナー違反とされているが、蕎麦は例外的に麺を啜ることが「粋」とされることもある食べ物である。
粋とはどういうことか訝しんだこともあったが、今の彼女を見れば皆納得するだろう。
麺を啜る音すら美しいのである。そんな彼女の姿に見とれていると、気付けば横に並ぶ椀の高さが増えているのである。
現在お椀タワーが建設中である。
皆初めのうちは不思議に思っていたがお椀タワーが四棟目に差し掛かったあたりで考えるのをやめた。
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