17: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:55:11.32 ID:U1swVBcn0
「私、寂しかったんです」
くぐもって聞こえることを差し引いても、聞いたことのない声音だった。もしかすると、今の麗花は見たことのない顔をしているのかもしれない。けれど振り返れない以上それを見ることはできない。
「プロデューサーさんと全然お話できなくて、全然会えなくて、寂しかったんです。プロデューサーさんがいつも飲んでるコーヒーを飲んでも、ただ苦いだけでした」
ぎゅっ。と、麗花の腕の力が強くなる。麗花の体温がより強く伝わってくる。
「プロデューサーさん。エアコンのときのお願い、今してもいいですか?」
「……ああ、もちろん」
思い出すのに少し時間がかかった。そうか、あれからもう1ヶ月は経ってるのか。
「プロデューサーさんと、もっと一緒にいたいです」
「麗花……」
「私、プロデューサーさんと一緒ならお茶がぬるくてもいいです。暑い部屋でも平気です。苦いコーヒーだって、一緒に飲んでみたいんです」
俺は。俺は麗花に何をしただろうか。違う。何もしなかったのだ。麗花の行動に意味はないと勝手に決めつけて、態度の変化も「そういうこともあるだろう」と見過ごして、向き合うことすらしなかった。身近な人と会えなければ寂しくなる。普通のことなのに、麗花はそうじゃないなんて思い込んでいた。
「お願いします、プロデューサーさん。普通に一緒にいて、普通のお話ができればいいんです。……一緒にいるのが特別になるのは、イヤなんです」
最後の方はほとんど消え入るような声で、こうして密着していなければ聞き取ることはできなかっただろう。
「麗花、離れてくれ」
「……はい」
けれど、このままではいられない。
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