23:名無しNIPPER[saga]
2020/04/26(日) 22:57:53.07 ID:DTyxDqAB0
「……分からん」
加蓮の椅子から右へ二、三席ほど離れているでしょうか。
若い男性の声が呻くように零れ落ち、加蓮の耳朶を微かに震わせました。
「あら、何が?」
「最後。主人公の友達、何で泣いてたんだ? 泣く場面じゃないだろ」
「居眠りしてた?」
「いや」
「中盤でシャワールーム、入ってたでしょ」
「入ってたけど……あ、あれか。ひょっとして――」
続けてもう一人、若い女性の呟きが重なるように漏れ聞こえてきます。
少し芝居掛かった匂いのする、けれどもひどく耳触りの良い声音でした。
何とは無しに視線を向けた瞬間、橙色の照明が再び灯されて。
男性の肩越しに、少女と目が合いました。
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