もしもし、そこの加蓮さん。
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19:名無しNIPPER[saga]
2020/04/26(日) 22:07:41.07 ID:DTyxDqAB0

今日の彼女は何だか薄ぼんやりとしていて、
いつもなら校門を出て十秒後には耳へ差し込んでいるイヤホンを取り出す様子もありません。
しばらく駅へ向かって歩いた所でようやくその存在を思い出すと、
鞄の中に手を突っ込んで、それから小さく溜息をつきました。

 「……よし」

こんな気分の日は映画に限ります。
以前に何かの記念で貰った割引券の期限を確かめてみれば、
ちょうど本日、この日限りでした。

これはもう観るしかないなと頷き、彼女の足取りは少しだけ軽やかさを取り戻しました。
駅へ向けていたつま先をくるり九十度曲げ、手慣れた様子で渋谷の街を抜けていきます。

薄汚れた裏通りの坂道を何度か曲がり、辿り着いたのはコンクリートの塊。
打ちっぱなしとはこの建物の為にある言葉だと称賛したくなるような、
いっそ潔いほど無骨な外観を誇るミニシアターでした。


加蓮に映画の好き嫌いはありません。
魔法ファンタジーだって、ミステリアニメだって、SFアクションだって観ます。
ただ、彼女にとって、
劇場まで足を運び鑑賞する『映画』は少しだけ違う意味合いを持っていました。

 「学生一枚。割引で」


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