樋口円香「天国とは程遠く、地獄と呼ぶには温かで」
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1: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:23:18.16 ID:HUVzNnIg0
わざとらしい咳払いが背後で響いて、そこからさらに数拍置いて「円香、今いいか」と声がした。
振り返ればそこには私を担当しているプロデューサーがいて、何やら紙束を抱えている。
「だめです」
「え」
「私がそう言ったらあなたは、はいそうですか、と諦めるんですか」
「また、タイミングを改めるとは思うけど……だめなのか」
「いえ。夕方からのレッスンまでであれば」
「ああ、うん。長くはかからないよ。……それ、歌詞カードか? 昨日の復習してたんだな」
「……早く本題に入ってもらえますか。要件は?」
「あはは。うん、オーディションの話が来てて」
「それは、私に?」
「うん。円香個人に」
「そうですか」
「まぁ、オーディションって言っても形式は色々でさ。今回みたいに、候補の子にだけ声をかけるのもあって……」
「それが、私に」
「そう、円香に。詳しくは資料を見て欲しいんだけど」
言って、彼は抱えている紙束をどさりと私の目の前に置いて、その上から一枚を取って、手渡してくる。
受け取った資料をざっと斜め読みしてみれば、なるほど彼の説明どおり概ね一般的なオーディションの要項が並んでいた。
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2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:27:16.39 ID:HUVzNnIg0
しかし、これまでに受けてきたオーデションと異なることもあった。
資料の最上部中央には、私もよく知るテレビ番組のタイトルがでかでかと印字されていて、共演予定の人たちも当然私のよく知る名前が並んでいるのである。
3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:28:31.11 ID:HUVzNnIg0
◆
手帳から顔を上げ、視線を横にずらす。
4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:29:39.51 ID:HUVzNnIg0
〇
社用車に乗り込み、ややかたいシートに深く座る。
5: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:31:36.36 ID:HUVzNnIg0
〇
しばらくして、車が後退していることを示す音が私を呼び戻す。
6: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:32:45.72 ID:HUVzNnIg0
〇
オーデションが行われる建物へ入り、待機場所として、いくつかある部屋の中の一つに通される。
7: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:33:57.35 ID:HUVzNnIg0
「大丈夫だよ、円香なら。誰より頑張ってきたんだ。保証する」
「相変わらず臆面もなく歯の浮くようなことを言うんですね」
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