11:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:06:52.94 ID:33Pc5UOzO
「俺の気持ち…か…」
仕事を終えた帰り道。義勇は一人呟く。思えば生徒として再会した時から、しのぶには多くの我慢をさせてしまっていた。教師と生徒だからと、付き合うのは卒業するまで待たせてしまったし、付き合ってからも口下手な義勇に合わせてくれるのはしのぶの方だ。
元々溜め込みやすい性格で、油断をするとすぐに自分を犠牲にしようとする。そんな彼女のことを幸せにしたかった。前世から、自分のことより他人のことを大切にする彼女のことを何より大事にしたかった。それなのに、どうして鮭大根が美味いくらいのことを言ってやれなかったのだろうか。
12:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:08:00.10 ID:33Pc5UOzO
「いや…違うな…」
そうだ、鮭大根どころではない。ずっとずっと、しのぶには世話になりっぱなしだ。口下手を良いことに甘えてきてしまった。もっともっと言わなければいけないことがあるのではないか。
13:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:08:35.47 ID:33Pc5UOzO
「…よし」
帰ったら全部伝えよう。唐突かもしれない。ひょっとしたら上手く伝わらないかもしれない。けれど伝えずにはいられない。これまでの想いを、前世の分まで。
さて、どんな言葉で伝えようか。あまり長々と話すべきではないな。簡潔に、それでいて気持ちが伝わる言葉を…
そんな風に考えながら義勇はいつもの帰り道をゆっくりゆっくり歩いていった。
14:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:21:37.13 ID:33Pc5UOzO
「話があるんだ」
家に帰り、荷物を置く。しのぶはもう既に夕食も風呂も準備してくれている。けれど、その前に義勇は決心が鈍らないうちに日頃の想いを伝えようと心に決めていた。
15:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:24:01.12 ID:33Pc5UOzO
「話…ですか?」
けれどしのぶはどこか浮かない表情だ。まるで何かに怯えているかのようだ。なるほど、確かに宇髄の言っていることは正しかったらしい。俺はこんなにもしのぶを不安にさせていたのか。
16:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:24:33.24 ID:33Pc5UOzO
「あぁ、いや、何、大した話ではないんだが…」
いざ言うとなると、少し気恥ずかしく思ってしまい、言葉が詰まる。こんなことではいけない。しっかりと伝えなければ。呼吸を整えて、話を始めようとしたその瞬間からだった。
17:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:27:01.74 ID:33Pc5UOzO
「わ、私も!義勇さんにお話があります!」
なんとしのぶの方からも話があるという。なんだろう。この不安そうな表情…というより、青ざめているようにも見える…ひょっとして、もう手遅れなのだろうか。向こうは既に俺に愛想を尽かしてしまったのかもしれない。
18:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:27:37.71 ID:33Pc5UOzO
「…そうか、だが俺から言わせてほしい」
もしもそうだったとしても、ちゃんと今までの感謝は伝えよう。そうしないと、自分の中で納得ができない。
19:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:28:10.23 ID:33Pc5UOzO
「い、嫌です!私からがいいです!」
珍しい。いつもは折れてくれるしのぶが、自分の意見を通そうとするなんて…それほどまでに俺といるのはもう限界なのだろうか…そう思うと胸が締め付けられるけれど、だとすればこちらも尚更譲れない。フラれた後に気持ちを伝えられる程、強いメンタルは持ち合わせていないのだ。
20:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:29:24.08 ID:33Pc5UOzO
「わかった…それならお互いに同時に言うと言うのはどうだ?」
「え?」
我ながらバカげた提案だと思った。けれどしのぶも譲りそうにない。俺にとってはこれ以外にこの状況を解決する方法がわからない。こうするしかないのだ。
21:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:29:50.36 ID:33Pc5UOzO
「…わかりました」
そんなバカげた提案にしのぶは珍しく乗ってきた。そこまで俺に愛想が尽きたのか。もうしのぶの顔は涙が溢れて見ていられない。すまない、しのぶ。これだけ…これだけ言えば、俺はもうお前の目の前からは消えるから…だから、これだけは言わせてくれ…
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