32:名無しNIPPER[saga]
2020/03/26(木) 00:20:54.05 ID:E3bwfHu30
「さあ、この村ともお別れだぞ。」
冨岡さんが去った後で俺も赤ん坊とそれに禰豆子が入った木箱を背負ってこの村を立ち去ろうとした。
鬼がいなくなった以上は俺もこの村に用はない。
それに俺が抱いている赤ん坊にとってもこの村は悲しい思い出しかない。
今はまだ真実を伝えるべきではない。いずれ大人になった時に改めて話してあげよと思う。
『―――行ってらっしゃい。』
ふと誰かがそんなことを囁いた。声の方を振り返ってみるとそこはこの子の生家であり今はもう無人のメシ屋だった。
「そうか、お母さんはちゃんと見守ってくれているんだな。」
俺は何も知らない無垢な赤ん坊にそう語りかけた。そして俺はある未来を思い浮かべた。
『お父さん!お母さん!定食出来たよ!』
『おやまあ、アンタもようやく一人前に料理出来るようになって。』
『そうだな。これで頼りになる婿を貰えたら万々歳だ。』
小さなメシ屋を親子三人で切り盛りする優しい家族たち。
明るく健やかに成長した一人娘とそれを喜ぶ両親。
『本当だねぇ。取り上げた時は本当に小さかったのによく大きく育ったもんだよ。』
そんな家族を取り上げた産婆のお婆さんが笑顔で語りかけてくれていた。
これはひょっとしたらありえたかもしれない未来…
親子仲良く居てほしかった。けれどもうこの未来は敵わない。
だからこそ唯一人遺されたこの子にはしあわせな未来を歩んでほしい。
それこそが今回の事件で関わった人たちすべての願いだ。
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