31: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:21:13.98 ID:RvB9VQpu0
紬さんが歌えば、旋律の波が声を指示するように伸びて、
ささやかな身じろぎに世界は応える。呼応する。循環する。
私たちの記憶は果てしない遠さを帯びている。
32: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:32:13.43 ID:RvB9VQpu0
「あっ」
「おや」
私と仕掛け人さまの声は、ほぼ同時に上がった。
33: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:37:38.00 ID:RvB9VQpu0
曲が終わって、紬さんは美しく微笑んだ。
紬さんがとても大きなものを掴み取ったことを、私は知っていた。
「仕掛け人さま。私、ひとつ素晴らしい発見をしてしまいました」
34: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:44:21.90 ID:RvB9VQpu0
「あなたたちは、とてもよく似ています」
それが、仕掛け人さまの答えだった。
「似て、いるのですか?」
35: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:51:59.33 ID:RvB9VQpu0
「使いなさい」
仕掛け人さまから、青紫の布が手渡されて、
それから堰を切ったように、私の目から涙が零れ落ちる。
36: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:57:57.62 ID:RvB9VQpu0
「あ、しまった」
仕掛け人さまは突然、間の抜けた声を上げた。
「今、目が合いました」
37: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 21:01:17.76 ID:RvB9VQpu0
「……それと、これは先程の話の続きですが」
仕掛け人さまは、頭を上げないままに話を続けた。
「あなたたちは、心根が優しいところもよく似ていると思います」
38: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 21:04:19.53 ID:RvB9VQpu0
「貴方は卑劣です」
紬さんの第一声はそれだった。
「あの時、私とエミリーさんは一蓮托生だったのです。エミリーさんの発言であれば、私の発言であるのと同義です。確かに私は世間知らずな若輩者であるのやもしれませんが、その程度の責任感なら十分持っていたつもりでした。だというのに貴方は、あろうことかエミリーさんが一人でいる状況を狙い撃ちして、しかも逃げ場のない関係者席で──」
39: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 21:12:18.09 ID:RvB9VQpu0
「誤解です! 仕掛け人さまは──」
「……誤解なのですか?」
紬さんは疑わしそうに、仕掛け人さまに尋ねた。
40: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 21:19:21.20 ID:RvB9VQpu0
「少し、寄り道していきませんか」
私の思い付きのような言葉に、紬さんは迷わず頷いてくれた。
手を引いて歩く。ちらりと振り返って、紬さんはちゃんとこちらを見ていたけれど、
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