3: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:27:18.73 ID:RvB9VQpu0
「何も分かりません。紬さんはどうなっているのですか」
「現時点で分かっていることは他にありません。
今こうして僕がスチュアートさんに説明しているのも、白石さんたっての希望があったからです」
4: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:28:16.97 ID:RvB9VQpu0
ひとつ確かなことは、紬さんは倒れてから2日も経たないうちに、
とてつもなく重い不幸を抱えながら、他人を、この私を、慮って行動したのだ。
その配慮が、心身の余裕から来るものだと信じたかった。
5: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:29:52.27 ID:RvB9VQpu0
私が紬さんに会うことを許されたのは、それから3日が経ってのことだった。
許された、と言っても私から能動的に動いたわけではなく、
紬さんの方から、仕掛け人さまを経由して私にまで連絡が届いたのだった。
6: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:30:44.29 ID:RvB9VQpu0
「そうですね。僕も、あれからの白石さんとは、まだ2回だけしか面会できていませんが……」
仕掛け人さまの言葉は珍しく不均等で分かりづらく、
紬さんの仕事の予定が変更され、その空白を埋めるために奔走したはずの連日の疲労が窺えた。
7: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:32:27.49 ID:RvB9VQpu0
「勿論、公演には出ます」
紬さんは当然とばかりに言い切った。
「そもそも、父も母も心配のしすぎなのです。仕事を放り出してまで東京に来てしまって……
8: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:33:44.86 ID:RvB9VQpu0
「……こほん。と、とにかく、私は大丈夫です。プロデューサーにもそう伝えておいてください」
「……できません」
自分の声が掠れているのが嫌だった。
9: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:34:46.69 ID:RvB9VQpu0
「エミリーさん」
白くて細い、綺麗な指が伸びて、膝の上で固く握られた、私の拳に触れる。
「信じて貰えないかもしれませんが、本当に、見えていないわけではないのです」
10: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:36:22.99 ID:RvB9VQpu0
「風が、呼吸によって折り畳まれるさまを見ることができます」
「え?」
「光の指や、水滴に潜む昏い秤が見えます。
11: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:37:14.74 ID:RvB9VQpu0
「できません」
仕掛け人さまは平坦な声で言った。
「次の公演に、白石さんを出すことはできません」
12: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:38:46.33 ID:RvB9VQpu0
「それは……まだ、慣れていないだけです」
「僕が白石さんと、白石さんのご両親に伺うことがあるとすれば」
仕掛け人さまの視線は、紬さんの『目』に真っ直ぐ衝突した。
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