白雪千夜「私の魔法使い」
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90: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:17:31.56 ID:ldlfMP+C0
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 ただならぬ悲壮感をひた隠しにしている千夜のレッスン風景を見学しながら、邪魔にならないよう、そして聞かれないようちとせとプロデューサーは小声で密談していた。

 ちとせがいないのでは意味がない、『Velvet Rose』として出るわけにはいかないと意固地になった千夜を説得したのはちとせだ。

 ユニットとして一番近くではなくとも、千夜がアイドルとして活躍しているところを見たい。千夜がアイドルをする枷にはなりたくないと、ちとせは千夜にお願いしていた。

 千夜はそれを命令として受け取ることで、なんとかレッスンにありついている。ちとせの身を誰よりも案じているからこそ、自分を律するためにそうするしかなかったのだ。

 ちとせも千夜がそうするだろうと承知した上で、お願いという形にこだわっている。

 千夜も薄々はちとせのことを察していた。誕生日プレゼントに踏み切れたのもそれがあったからかもしれない。

 ここにきて一気に事態が表面化してしまい、心の整理も追いついていないだろう。

 千夜にとって何を優先すべきなのか。大事な人に寄り添いたいが、それがちとせのためにならないのであれば、と。

 心のままに動けるほど、千夜はちとせからは離れられてない。結び付きだけで言うなら、アイドル活動を経てより強固なものになっている。

 大事な人が今苦しんでいるなら、それも無理からぬ話だが。

 少しでも心配を掛けないよう、そして何もしてあげられないならせめてそばにいたい、そう申し出たちとせの身体の調子は見るからに悪そうだ。千夜も何度も止めたという。

「ごめんね、やっぱり足引っ張っちゃった」

「そんな……。ここまでこれただけでも、快挙だよ」

 春先に出会ってからというもの、ユニットデビューを経てからの2人は新人とは思えないほど活躍が目覚ましかった。

 彼女たちのポテンシャルと、プロデューサーとしての働きが上手く噛み合った結果だとちひろは称賛してくれていたが……。

「俺の方こそ、頼ってばかりだった。初めて会った時から……ちとせに……」

「その顔も久し振りだね。また老けちゃって、竜宮城からの帰りに開けちゃいけない箱でも開けたの?」

「……そんなに老けて見える?」

「うん。長い間、ずっと頑張ってきたのにもう歩けなくなっちゃったんだなって。あなたに会った時、そう思ったんだ」

「お見通しか……。それなら、俺のことも――」

 言い掛けて、ちとせの細い指に唇を軽く押し当てられ、その先の言葉を紡ぐことを防がれる。

「それはいいよ。魔法使いさん嘘が下手だもんね。覚えてる? 私とした約束」



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