速水奏「人形の夢」
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33: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:37:54.88 ID:W4W9+UtG0
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翌日のお昼休み

木犀浪学園・大校舎2階・奏の教室

『キヨラさん』が現れなかった次のお昼休み。噓から出たまこと、という言葉があることを思い出したわ。

「この人形なら、見たことがあります」

「私もありますよぉ」

西園寺さんがまだ戻っていないのを見計らって、白雪さんと井村さんに聞いてみたら答えてくれた。

「見たのは、どこかしら」

「寮でしたよぉ」

「私も同じです。相原先輩が驚かなくて、安心しました」

ふと、思い出す。私が見たのも食堂と1号館だったわね。

「もしかして、寮の1号館かしら?」

「そうですが」

「私と里美ちゃんが215号室、相原先輩と千夜ちゃんが214号室なんですよぉ」

「そう言えば、お隣同士だったわね」昨日話を聞いた1年生も1号館だったわね。
西園寺さんが教室に戻ってきたのが見えた。話題を変えましょうか。

「ルームメイトのかな子が言っていたのだけれど、『キヨラさん』って知ってるかしら」

「知ってますよぉ、千夜ちゃんはどうですかぁ?」

「私も知っていますよ」

「有名な話なのね」

「夏になれば、幾らでも聞けます。学園定番の怪談ですから」

白雪さんがうんざりとしたように言う。聞き飽きてるのが良くわかるわ。

「怪談だけど、ハッピーエンドだからぁ、みんな話すんですよぉ」

「わかっています、そんなことは……わかっています」

『キヨラさん』の話は様々なバリエーションがあるみたい、学園の生徒も3年生になれば各々がアレンジした『キヨラさん』を話せるとかなんとか……落語じゃないんだから。いずれにせよ、最後はハッピーエンド。バッドエンドにするのは流儀に反するから、厳しく批判されるらしいわ。

「2人は見たことあるのかしら」

「まさか。ありえませんよ」

「ないですぅ、会ってみたいのに」

「寮に出るの?」

「出たと聞いたことはありません。そもそも、どこに出るかは誰が話すか次第ですから」

「寮で会う話は聞いたことがありますよぉ」

「ウワサ話にしては、広まり過ぎね」見た目の特徴は、私が見た幽霊と全ての話で一致している。外見、服装、イタズラ好き、学園内、ハッピーエンドは誰が話しても一緒。

「本当にいるんですよぉ」

「そう思うことにするわ」見たからわかるわ、幽霊はいるの。見たとは言わないけれどね。人形は1号館に、幽霊は2号館に。かな子への嘘がまことになるかもしれない、そうなったら良いわね。

「モデルになった人がいるのかもしれません。ここはホスピスだったそうですから」

「ホスピス?」

「学校史の最初に書いてありますよぉ。あっ、転校してきたから授業を受けてないでしたねぇ」

「その1文だけです。ホスピスとしていますが、重症患者を隔離するための場所だったのでしょう」

「もうないですけどぉ、最初の校舎はその建物を使ってたそうですぅ」

「へぇ、そんな歴史があるのね」つまり、そのおかげで良い土地だと思われていないわけね。広大な土地が残っているのも、それが理由。

「もっとも、そんな時代を知る人も今はいないようです」

「ずっと昔の話ですからねぇ」

『キヨラさん』が待ってる場所はわからなそうね、知ってる人は……いるじゃない。あの喫茶店に。



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