20: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:27:32.67 ID:W4W9+UtG0
15
夜
木犀浪学園・大校舎1階・食堂
学園の生活はゆっくりと進むように感じるけれど、与えられた時間は同じ。のんびりと読んだことのある雑誌を眺めていても、太陽は傾いて夜が来る。ほとんどの時間をベッドで過ごしていても、お腹は空いてくる。お昼がちょっと早かったのもあるけれど。そんなわけで、かな子と一緒に食堂に来ている。今日の夕食から再開したとは思えないほどに、いつも通りの光景が広がっていた。金曜日の夜以外は和食と洋食が用意されて、小鉢も、ヘルシーなメニューも多い。食堂は無料、学費に含まれてるみたい。元ホテルシェフがいるとかいないとか、そんなウワサもあるわ。食堂のご飯って美味しいですよね、つい食べ過ぎちゃいますって、かな子が言うのもわかるわ。ちなみに、金曜日の夜はカレーよ。
今日は、ご飯と煮魚に味噌汁、今日はワカメとネギみたい、それとフルーツの入ったヨーグルトにしたわ。かな子はどこかしら。いた。長方形の6人掛けテーブルにトレイを置いて、手をあげている。テーブルには先客が2人。向かい合うのではなく、2人は並んで座っていた。
「お邪魔するわね」先客は、1年生の五十嵐響子と同じく水本ゆかり。私とは学校案内のオリエンテーションを一緒に受けた間柄ね、部屋が近いこともあってかな子とも私とも面識がある。
「お邪魔じゃないですよ、ね、ゆかりちゃん?」
「もちろんです、響子さん。奏さん、遠慮なく」
この2人が並んで座っているので、仕方なく私とかな子も2人の前に並んで座ることになった。世間一般的に2人で席を取る場合、友人関係だったら向かい合って座るのだけれど。
「奏さん、今日は煮魚ですか?」
「ええ。どれも美味しそうで困るわね」かな子のトレイに乗っているオムレツは、余計に取ってしまったのでしょうね。マカロンも今日は2つになっている。定期的にマカロンが置いてある食堂も珍しいけれど、もう慣れたわ。
「本当に迷っちゃいますよね、どれも美味しくて。自分で作るよりも何でこんなに美味しいんだろう?」
「量を作ると美味しくなるって言うわね。だけど、かな子の料理も負けないくらい美味しかったわ」当分食べる機会はないでしょうけれど、次の機会もあるといいわね。
「響子さんのお料理も美味しいですよ」
テーブルの向こうから唐突に声が飛んできた。
「そうなんですか?」
「はい。絶品ですよ」
「もう、ゆかりちゃん。そんなことないですよっ」
「響子さん、謙遜しなくてもいいですよ。私は毎日でも食べてみたいです」
「もー、食べないと冷めちゃいますよ。はい、あーん」
「あーん……もぐもぐ……」
「ゆかりちゃん、ゆっくり噛んで食べてくださいねっ」
「えっと、まぁ、いいわ。仲良いことはいいことよね、かな子?」思春期の女学生は普通の友情からは想像のつかない行動をすることもある、そんな実例を見ている。
「え?はい」
「かな子も食べさせて欲しいの?」
「え、ええ!?」
「冗談よ」ここに来るまでは大家族のお姉ちゃんだった五十嵐響子さんは、ちょっと世間知らずでかなり天然の水本ゆかりがルームメイトになったことで、お世話したいという本能が暴走してしまった、と推測されているわ。水本さんの方は元々の性格も相まって、この状況をどう思ってるかはわかりにくい。嘘はついてないと思うけれど、本心までは見透かせない。
「皆様、お久しぶりですわ」
55Res/100.68 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20