2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/24(火) 03:23:26.20 ID:FLJvNdsK0
と、来ればここはアイドル渋谷凛の腕の見せ所なのではないだろうか。
見せ所だと思う。
なんて、胸の内で自分に言って聞かせる。
かけている伊達眼鏡を外してポケットへとしまい込む。
次いで、大きく一歩踏み出して、覗き込むように「あの」と声をかけた。
相手がどきり、としたのがわかる。
よし。
入りは上々だろう。
「改めて、今日はたくさん気を遣っていただいちゃって、すみません。でも、おかげでイベント、すっごく楽しくできました。ありがとうございました」
言い終わると同時に、重心を踵に移動させ、くるりと方向転換し、何事もなかったように歩き出す。
それから、二言、三言の謝辞の繰り返しを経て、私は用意してもらっていたタクシーへと乗り込んだ。
運転手さんへ「事務所でお願いします」と声をかけ、ゆるやかに流れ始めた景色に視線を移す。
さっきのは、自分ではなかなかに良い対応ができたと思う。などと、自賛してみるが、もうちょっと上手にやれたのではないか、とも思う。
こういうのは、加蓮が上手い。
先程のそれも、脳内の彼女を真似て行動してみたのだが、脳内の彼女と完全に同じ行動はできなかったのである。
私も、彼女のように悪戯っぽく笑ってウィンクでも投げられたら、さらにファンサービスが上達するのかもしれないが、どうにも荷が重い。
というか、私は加蓮のように自然に繰り出せはしないだろう。
だが、冷たい第一印象からのそういった温度差は立派な武器である、とどこかの誰かが言っていた気もするので、あれはあれで正解なのかもしれない。
うん、たぶん、正解だ。
なんていう、どうでもいい反省会を頭の中でしているうちに、暖房の効いた暖かな車内と心地の良い揺れによって、私はゆっくりゆっくり意識を手放していく。
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