【たぬき】小日向美穂「令和狸合戦ぽんぽこひなた 〜さらわれたPさんを追え〜」
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114: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2020/02/27(木) 01:32:23.19 ID:SQAfR/tb0

「やはり。婿殿、貴殿はなにやら奇天烈な匂いを漂わせていなさる」
「えっ臭いっすか。昨日ちゃんと洗ったんですが……」
「温泉の芳香でも打ち消せぬ、体中に染み入った類まれなるものどもの香りが……」

 スルーされた。
 いや、てことは体臭じゃないんだろうが、じゃあなんだ?


「たぬき。人。ここまではよろしかろう。加えて狐、兎、ふむ……西洋の化生の気配もある。続いて鹿……否、トナカイ。
 更には桑の葉……そういえば桑を神体とする東北の農耕神がおりましたな。仄かな花の香は柊。魔除け、退魔の血筋にゆかりのあるものです。
 直接匂いは感じませぬが、鼻先をくすぐる冷気も尋常のものではない。雪女など久しく見たこともありませぬが、いや珍しい。

 それから――とても旧い、旧く永い土と樹の匂い。およそ生き物の匂いではありませぬが、覚えがあります。
 幼き頃、父に連れられて巡礼した果ても知れぬ紀伊の路。あれは確か、山伏の聖地……熊野古道と言いましたかな。あの場所の匂いと似ている。

 ……そして山とは真逆に、気も遠くなるような潮(うしお)の匂い。
 これは果たして何者の匂いかすらもわかりませぬ。母なる海そのもののような……遥か遠き島にでも迷い込んだようです」




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