8:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 20:58:21.36 ID:QXbKSZYO0
男をゲストルームに案内し、紅茶を出す。
椅子の背にもたれることの無いまま、男は頭を下げた。まるで背中に大きな定規が刺さっているかのようだ。
「コーヒーの方が、よろしかったでしょうか」
「いえ、お気遣いなく……あの」
「何か?」
男は部屋を少し見渡して、不思議そうな表情を浮かべて私を見た。
「あなたは、お掛けにならないのですか?」
――お茶を出した後も、私が立ったままでいるのが気に掛かるらしい。
お嬢様からは、聞かされていないのだろうか。
「なぜ私が立っているのか、その理由は二つです。
一つは、私が黒埼に仕える従者であること。
主の命令を抜きに、私がこの屋敷にあるものを自由に扱うことなどありません」
まるで奇異なものに直面したかのように、男は目をしばたいている。
人に仕えるということに馴染みが無かった男なのだろう。
「そしてもう一つは、あなたと長話をする気など無いという意思表示です。
どうぞ、ご用件をお話しください」
男は、首の後ろを掻いて、その手を膝に置き直した。
「あなたには今、夢中になれるものはありますか?」
「えっ?」
301Res/285.11 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20