タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7
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188:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/26(木) 23:49:16.99 ID:HzwCLkz90
>>77「停止した惑星」

北方――これはあくまで便宜的な呼び名ではあるが――に、爛々と太陽が燃えている。
その場所に北中してから、同じ箇所を延々と照らし続け、杏子色の空には南へとたなびいていく雲があった。

 周辺は嫌というほど荒涼としている。かつて青かったこの地も、夜が来ず強烈な日差しにやられ、強風も手伝って植物の痕跡は骨粗しょう症になった骨のように穴が開いた黒い樹木の幹のみだ。移動ができる生物は皆ここから離れ、昼と夜の(すでにその二元的な概念は消滅している)境目に盛んに集まって過ごしていた。
 扁平な生物が太陽に向かって飛んでいく。コシライである。昼半球にずっと生息しているのはこの生物くらいのものである。コシライは風に乗って飛来するプランクトンを、網目状の大きな口で漉しとるようにして食べる。地球の生物でいったら、最も近いのはジンベエザメだろうか? 少なくとも食事に関しては近似するものとして考えてもいい。そして地上を移動する機構というものを持っていないために、ずっと空中に留まっていなければならないのだが、夜半球には風が少ないために、そこでは生存が困難になってしまう。だからコシライは昼半球の強風に向かってプランクトンがやってくるのをひたすら食う生活を行っているのである。
 
 昼半球と夜半球の間。砂埃がもうもうと舞うところに、のっぺりとした肌の生物がうずくまっている。扁平な頭、短い手足、その手足と胴を結ぶ膜、目を覆う瞼のようなもの。ハレイノーだ。後ろ足で立つことが可能になり、全体的にいっそう扁平に、鰓の張り出しがより極端になったブラキオプス類のような見た目?
 一匹だけ取り残されている。砂埃に巻き込まれるとハレイノーはぷよぷよした肌が砂にまみれて身動きが取れなくなる。水分が吸い取られて強張ってしまうのだ。仲間は逃げ出せたが、ふるふる一匹だけうつぶせたままだ。
 
 それを狙う大きな生物。鋭角的な作りの頭部、細い体、薄い翼、無駄のないひょろりとして締まった脚、その先には鋭い爪と細かい棘がある。エッキノーダーという。この惑星最大の捕食者である。普段は流れる砂の中で体を縮めて動かない。そして腹が減った頃になって首を伸ばして獲物を探し、それめがけて一気にとびかかって仕留める。不意打ち、そしてスピード勝負だ。

 エッキノーダーはしばし取り残されたハレイノーを見つめていた。同情しているような見方ではなく、どの角度から襲おうか見分している、残酷な目つきである。
 あッ……と息をつく暇もなく、可哀そうなハレイノーはエッキノーダーの口で背骨を砕かれてぐったりしていた。目にもとまらぬ早業。砂埃の引いた岩の上にハレイノーをいったん落とすと、爪でその体を抑えて弾力のある肌を裂こうと尽力し始めた。脂肪が豊富にあって、エネルギーには困るまい……。

 
 どれだけ時間が流れようと、夜は来ないし昼もまた同様に来ない。一方はずっと昼であり、一方はずっと夜である。太陽は地軸の真上にあって変わらない。影は常に、最も近い状態だ。その光を直に受ける極地は、冷酷な表情をしたクレーター状に大地が削れていて、そこからオニヒトデの触手のように幾筋かがそこから伸び、流れていく雲と同じく強い風の存在を示している。

 星は止まっている。それでも、この星に適応した生き物が生きている。


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