タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7
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134:名無しNIPPER[sage saga]
2020/02/13(木) 22:59:17.38 ID:LYiFRwOS0
>>69「愛の薔薇」

 詰襟の二人の少年が、橙色の差す坂道を下っている。西の空に一羽のカラスが飛び、夕陽をわずかに陰らせた。
背の低い方の少年が空を見上げて、

「あーあ、大学どうすっかなー。全然わかんねえや」
「まだ決めてなかったのか? センターの出願来週だろ」
「そうなんだよ、そうなんだけどさー……」

口をとがらせて大きな目をくりくりさせて歩いた。僕はその顔が好きだった。髪は柔らかくて滑らかだ。風が吹くたびに一本一本がさらさらとなびく。
瞳は色が薄く、夏になると彼はよく目の上に手を当てて影を作り、その上目を細め、
「ずいぶん眩しいね。目を開けてるのがつらいや」
 とはにかみながら言うのだ。普段白い首が強い日差しに晒されて赤くなっている。そこからあふれてくるのは彼の活きて熱く滾る血潮……。

 休み時間になると彼はよく僕の元にやってくる。小学生のころからそうだった。いつもいつも、休み時間になると僕の席にやってきて他愛もないことを話すのだ。
 流行りのアイドルのこと。
 昨日のバラエティのこと。
 勉強のこと。
 行事のこと。
 部活のこと。
 そして学校の女の子のこと。
 
 女の子の話をされると胸が締めつけられるように感じ始めたのは中学に上がった頃だろうか?
 僕はその正体を量りかねた。と同時に、可愛いと思う女の子、交わりたい子はいるのに恋愛感情が彼女らに対して湧かないのも不思議だったのだが……。
しかし彼が楽しそうに話をしているので、僕はそのことを告白することができずにいた。今でもできていない。きっとこれからも心のうちに秘め続けるだろう。どんな顔を彼がするのか本当に知ってしまうのが怖いからだ……。

「お」
 と彼は足を止めて店頭を見た。そこにあったのは花屋で、軒先に可憐な薔薇が立ててあった。いったい何輪あるだろう。百は下らないかもしれない。

「薔薇、あげてみたいよな。一生を誓った運命の人に。そのときどんな顔をしてくれるんだろう、俺のフィアンセは……どんな人なのかな」

 さあな、と僕は哀愁を心の底に沈めてから言った。膝に手をついて薔薇に見入る彼の顔は溌溂としていた。まるで将来の希望が既定の事柄であるとでも言いたげな表情だ。同意を求めるように笑いかけてきたので適切な相槌を打つ。

「出会えるといいな、そんな素敵な人に」

 無邪気な顔をして彼はまた笑った。しかし立派な薔薇だなー、ずっと見ていたいや。

 僕もそうだ、と声に出さずに言った。しかし薔薇は二の次である。薔薇に喜ぶ彼がなによりも喜ばしかった。素晴らしかった。愛らしかった!
 自然と幸福そうな笑顔に変わっているのが自分でもわかった。薔薇に目を移す。
 深紅の花弁が盛大に咲き誇り、火炎のように心の中をかき乱していた。熱く、火をつけようとしているようでもある。
 
 でも――そうするわけにはいかないんだ、わかってほしい。応援してくれるのはうれしいけどさ、それはなされてはならないんだ。僕が彼のすぐ近くに居続けるためにも。
 
 薔薇の花は立派で、深紅色、他のどんなものにも勝る純粋な深紅色であった。


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