111: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2019/10/03(木) 22:00:10.06 ID:wT2tO75h0
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エピローグ・ガール/ミーツ/ガール
良楠公園
らなんこうえん。大きな桜の木がシンボル。風花というお花屋さんが北口の前にある。
『渋谷凛さん、ご連絡です。化粧師が亡くなりました』
花も葉もない桜を見上げていた時に、頼子からメッセージが来た。
白々しい、直接じゃなくても自分で手をかけたくせに。
メッセージに私の名前を書いてきた理由も気になる、頑なに呼ばなかったのに。
何か考えはある。その考えの道には乗らない。
『化粧師』を少しは尊敬していた。名前に縛られないから。
縛られない何者かになれていたのに、それを手放そうとしていた。
頼子には返信しない。今の寝床に帰ろう。
公園を出ると、風花という名前のフラワーショップはまだ営業していた。
制服姿の女の子が、値札の桁を数えたり、うんうん悩みながら、花を見繕っていた。
時間が遅い。アルバイト……いや、習い事の帰りかな。きっと、良さげな家庭で育ってきたはず。
花屋の店員さんはいなくて、女の子は悩み続けている。嬉しそうに。
「あ……」
目と目が逢って、自分が立ち止まっていると気がついた。
「こんばんは!えっと、店員さんですか?」
そう見えたのだろうか。間違いではないけれど。
「贈り物を探してて……あっ、贈り物といっても自分用なんですけど」
「自分用?」
不思議な言い方に思わず、オウム返しをしてしまった。
「私にとって、すごく嬉しい記念日なんです」
本当に嬉しそうだったから、無下には出来なかった。
「それとか」
「これ、ですか?」
「アネモネ。花言葉は期待、希望。そんな感じでしょ」
店員じゃないから、ここまで。帰り道を数歩進んだところで、声がした。
「あの、ありがとうございました!」
なぜ、止まったんだろう。どうして、振り向いたのかな。
「私、がんばりますっ!」
「うん。がんばって」
なんで、答えたのかな。
私は女の子の反応を見ないで歩きだす。
星に背を向けて、私は暗闇に歩き始めた。
エピローグ 了
終
製作 tv〇sahi
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