【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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13: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:26:43.35 ID:oj63shz20
「……マフィンの話になるんだが」
「ええ」
「マフィンってお菓子の中では簡単に作れる方でさ。手軽なんだ。だけど生地を混ぜるときだけは注意が必要で、そこを『ちゃんと』できてないと全てが駄目になってしまう」

「そうなの」
「大事なのは薄力粉を入れた後の混ぜ具合なんだよ。混ぜ方が甘いと粉がだまになってパサパサとした出来上がりになる。けど混ぜすぎると生地の粘りが強くなりすぎて、今度は焼いた時に膨らまなくなる。その加減が難しくて……なんというか、混ぜているときは不安でしょうがない」

「そういう不安はわかる気がするわ」
「誰だってそうなんじゃないか。自分のしていることが正しいのかどうか、そんな不安はいつだってつきまとう。どんな趣味でも、どんな仕事をしていても、何もしていなくても。……その点がマフィンはよくてさ。焼けばわかるんだ。『ちゃんと』していたかどうか、はっきりと」

 上手にふんわりと焼きあがれば『ちゃんと』できた。そうでなければ『ちゃんと』できていない。単純明快な判断機構だ。

 マフィン作りの『ちゃんと』は状況によって様々だ。薄力粉の保存状態、気温と湿度、作る生地の量などで、混ぜ加減の正解はころころと移り変わる。『ちゃんと』という言葉は曖昧だ。それはマフィン作り以外でも同じこと。ケースバイケース。霧の中にしかないもの。

 それを感じつつも俺は『ちゃんと』を求めた。求めていた。自身の行動の正しさを『ちゃんと』に帰着させようとしていた。彼女のように、『過程を楽しむ』ということができなかったから。

「俺は『ちゃんと』して……そうやって、漠然とした不安から逃れたかった」
 俺は静かに箸に力を込めて、どんぶりの中に在るものを二つに割る。最後のカツ一切れが二切れになった。


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