3:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:18:40.19 ID:Ob8vgikR0
…こほん。では、改めて進みましょう。もう少し登ったところです。
…え? ええ。この辺りは昔からおじいちゃんによく連れてきてもらったんです。ほら、水の流れる音が小さく聞こえませんか? いつかPさんと私とおじいちゃんの3人で釣りをしたあの川です。あの川の源流がもう少し先にあるんです。
4:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:19:35.90 ID:Ob8vgikR0
…? 嬉しそうに見えます、私? ……そうですね。嬉しいかも、しれないです。
それはそうですよ。アイドルとして、いつもPさんに手を引かれているのですから。たまには私の方がPさんを連れて行くんです。
5:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:21:05.70 ID:Ob8vgikR0
…いつも言っているではないですか。私はワンちゃんではありませんよ。何故だか、私をそう扱う方は多いですけど。
え? …ああ、そういえば、目的を言っていませんでしたね。ピクニック…とは、少し違うかな…?
6:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:21:39.16 ID:Ob8vgikR0
どんな人、ですか…それは…少し答えに困りますね。少なくとも、とても優しい方なのだろうと、私は思います。
…ほら、水の音、少し強くなってきたでしょう? もう少しです。……あ、ここ、少し滑りやすいので気をつけて。さあ、私の手をしっかりと握って…よっと…。ふふ、お見事です。
7:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:23:33.02 ID:Ob8vgikR0
ーさあ、着きましたよ。
8:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:24:40.36 ID:Ob8vgikR0
恩人の方ですか? ……ええ、いますよ。今も。…Pさん、Pさん。上ではありません。下です。あ、ほら、こちらです。
…そうです。このお地蔵さまが、私の恩人なんです。…くすっ。確かに、いきなりそう言われてもどういうことかわからないですよね。……ここ、影になっていて涼しいですし、お昼ご飯にしましょうか。おにぎりとお茶がありますよ。食べながらゆっくりと、お話しさせていただきます。
9:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:26:26.66 ID:Ob8vgikR0
ーあれは、私が小学生になってはじめての初夏のことだと記憶しています。
10:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:29:35.23 ID:Ob8vgikR0
元々この辺りはおじいちゃんに連れてきてもらっていたというのは、さっき話しましたよね? ですから、このお地蔵さまも私にとっては馴染み深いものでした。小さい頃の私は、お地蔵さまを「可愛らしいもの」としか捉えていませんでしたが…
この場所は、ちょうどこの山の中間地点にあたるんです。今までは身体も小さかったのでここでお地蔵さまに手を合わせて引き返していたのですけれど、その日は「肇も小学生になったんだし、頂上まで登ってみようか」という話になって、ここで腰を下ろしお昼ご飯を食べながら休憩したんです。…今の私たちみたいに、おにぎりとお茶をいただきました。
11:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:35:32.97 ID:Ob8vgikR0
…子どもというのは、不思議なものですね。私も、どうしてそうしようと思ったのかわかりませんが、じっとお地蔵さまを見ながらおにぎりを食べていたらなんだか無性にそうしたくなって。私の食べていたおにぎりの半分をお地蔵さまにお供えしたんです。おじいちゃんは、そっと私の頭を撫でてくれました。
…そして、時が過ぎその年の夏休みです。私は、おじいちゃんが留守にしていたとある日の朝、ふとこんなことを思ったんです。「ひとりでこの山の頂上まで登りたい」と。
12:名無しNIPPER[sage ]
2019/08/01(木) 00:37:53.82 ID:Ob8vgikR0
今思えば、若気の至りというか…え? ふふ、そうですね。今も若いと自負していますが…。とにかく、「おじいちゃんの力を借りずにひとりで登ってみたい」と思ったんです。それで、両親には「友だちの家に遊びに行く」と嘘をついて、水筒だけを持ってこの山に来ました。
順調に登っていたのですが…ここに来る途中、道が分かれていたところがあったのを覚えていますか? ええ、そうです。あそこです。あそこは、本当は右に曲がらなければならないのです。左は、途中までは道も開けているのですが、少し歩くと道らしい道がなくなり周りの景色も似たり寄ったりで元来た道が分からなくなってしまうような場所なんです。
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