有栖川夏葉「とっておきの唄」
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8: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/07/20(土) 23:50:43.71 ID:+a76L7SS0

「あ、そうだ。最近、一眼を買ってさ」

「これからはカメラマンまでやるつもり?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。私物として持っていて損はないと思ってさ。ほら、オフショットとか、より綺麗に撮れるし」

「明日はお仕事で海に行くわけじゃないでしょう?」

「まぁ、そうだけど」

「私もアナタも、行きたくて行くんだから」

「それもそうだ。プライベートまで仕事のこと考えてちゃダメか」

「わかればいいのよ」

「じゃあ、こうしよう。夏葉がオフにわざわざ俺と遊んでくれる記念を写真に残すために、カメラを持って行く」

「その言い分ならダメとは言えないわね」

「だろ」

「でもそれなら、そういう動機で持って行くカメラで撮った写真がお仕事に使われるなんてこと、あったらいけないわよね」

「…………そう、なる? のか?」

「なるのよ。明日、多数決してもいいわよ」

「一対一じゃん」

「こっちにはカトレアがいるのを忘れたの?」

「初めから勝ち目のない戦いだった」

「もちろん、今回に限った話じゃないわよ?」

「業務時間外というか、プライベートで俺が撮った夏葉の写真は原則非公開ってことか?」

「当然でしょう」

「じゃあこれからはオフで夏葉とカメラを持って会う度に、ちょっとずつ非公開のアルバムが増えていくわけだ」

「ふふ、いいわね。それ。私にもアプリか何かで見られるようにしてくれる?」

「もちろん」

「じゃあ、二人の魔法のアルバムね」

「魔法?」

「だってそうしたら、いっぱいになることはないじゃない。現実のアルバムと違って」

「あー、そういう。……それに、文字通り“重く”なるもんな」

「そうね。いつか、うんと重くなるのを楽しみにしてるわ」

「数年後……いや、一年後でも。きっと最初の一枚と、そのときの最新の一枚は、状況とか、色々違ってるんだろうなぁ」

「そうかしら?」

彼が「えっ」と声を上げてる間に、スマートフォンを操作してカメラを起動する。

すかさずインカメラに変更して、鍛え上げた自撮りの技術を如何なく発揮し、ぱしゃりとシャッターを切った。

満面の笑みの私と、不意を突かれた表情の彼。

その一瞬が切り取られ画面に映されたのを見て、私は確信めいたものを感じていた。



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