6:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:44:25.29 ID:lCVrPTby0
「ふぅ」ムギセンパイが満足そうに息を吐いた。
センパイの丼にはスープの汁一滴、チャーハンのお米一粒も残っていない。
すっかり食べ終えた後は、「これは何に使うの?」と言いながら爪楊枝を手に取ってみたり、メニュー表を隅から隅まで舐めるように見回しては「替え玉、ってなぁに?」と訊ねたり。その都度、私はムギセンパイの疑問に答えた。
7:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:45:33.81 ID:lCVrPTby0
「もう一杯、頼んでもいい?」両手を合わせたムギセンパイが上目遣いに訊いた。
えっ。驚いた私は思わず声に出した。ラーメンに、半チャーハンまで食べたのに。
無理でないなら、どうぞ。そう答えるとムギセンパイはにっこりと笑い、店員さんを呼び止めて替え玉を追加注文した。やってきた替え玉をもくもくと平らげて、にっこり笑い、「こんなにおいしいもの食べたの、はじめて」とおおげさに喜んだ。
8:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:46:26.87 ID:lCVrPTby0
「そんなにおいしかったですか」
「うん。とっても。さいきん、しょっぱいものとかあぶらっこいものとか、無性に食べたくなるの」
お酒飲みみたいだな。って思ったけど、口には出さず、黙って頷く。
9:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:48:02.26 ID:lCVrPTby0
「そう、超能力」
ムギセンパイが真顔で答える。
もしかして、ボケてる? ムギセンパイなりの、精いっぱいの冗談かもしれない。ツッコんだほうがいいのかな。
10:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:50:00.33 ID:lCVrPTby0
「そうね。たとえば、スプーン曲げ、とか」
「えーっと、それは手品的なやつ、ってことですか?」
なるほど。ムギセンパイはさいきん手品にハマってる、というわけか。
11:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:51:35.83 ID:lCVrPTby0
琴吹家に生まれた女の子は、17歳になると超能力が発現する。
ムギセンパイのお母さんもおばあさんも、ひいおばあさんもそのまたおばあさんも、みんなそうだった。
ただしそれは18歳になると失われる。一年間限定の力。
超能力といっても、力には制限がある。
12:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:52:17.49 ID:lCVrPTby0
ムギセンパイにできるのはスプーン曲げ=B
実際に見せたほうが早いかしら。ムギセンパイがポケットからスプーンを取り出した。
どうしてそこからスプーンが? 疑問を封じ込めたまま触らせてもらう。
特におかしなところはない。何の変哲もないよくある銀のスプーンだ。お店のじゃなくて、わたしのだから大丈夫、と注釈をつける。スプーンを持ち歩いてるのか、このひと。
13:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:53:53.50 ID:lCVrPTby0
「梓ちゃん。よく見ててね」
ムギセンパイは左手にスプーンの柄の端を持ち、右手の親指と人差し指でスプーンの首もとをつまむと、ゆっくりと擦りだした。
私はセンパイの手元をじっと見つめた。
14:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:54:27.33 ID:lCVrPTby0
何も起こらないまま、静かに呼吸だけが続く。
しばらくしてムギセンパイが大きく息を吸い込んだ。
15:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:55:32.12 ID:lCVrPTby0
右手をスプーンから離し、左手を左右に振る。
スプーンが揺れる。
スプーンの頭はぐにゃぐにゃと左右に傾げる。
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