19:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:58:33.46 ID:lCVrPTby0
超能力の話の続き。
超能力を使わないでいると、身体の中に余計なエネルギーが溜まってしまう。
ムギセンパイ曰く、おなかの下のほうがムズムズするっていうか、ムラムラするっていうか、気持ち悪くてたまらないらしい。
だから定期的に発散する必要がある。排便みたいなものね。とムギセンパイは言う。例えが悪すぎる。
20:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:59:23.49 ID:lCVrPTby0
「他のセンパイ方には見せたんですか?」
ムギセンパイは首を横に振った。
「どうしてです? 今度部室でやってみせてほしいです!」
21:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:03:12.62 ID:lCVrPTby0
「だって。ただスプーンを曲げるだけよ」
「十分すごいですって!」
「そうかなぁ。ビームとか、ワープとか、空中浮揚とか、マンドリルに変身とか、そういう派手さはないじゃない? タツマキも出せないし。期待させるだけさせおいて、がっかりさせちゃったらわるいもの」
22:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:04:33.79 ID:lCVrPTby0
その日以来、ときどきムギセンパイとラーメン屋に行くようになった。
いまだにひとりでは入りづらいようで、私はいつも付き合わされる。
ムギセンパイは何杯もラーメンをお替りする。食べても食べても太らない。その身体のどこにラーメンが消えてゆくのか。不思議でしかたない。太りやすい体質を気にしていたはずなのに。超能力のカロリー消費量はかなりのものらしい。役得ね、とムギセンパイは嬉しそうに言っていた。
23:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:06:13.13 ID:lCVrPTby0
私たちは雑談にふける。放課後はお茶とお喋りの毎日だというのに、それでも話のタネは尽きない、
私とふたりのとき、ムギセンパイはやたらとコイバナをしたがる。
梓ちゃんは彼氏とかいなかったの? 中学校は共学でしょ? 共学だからって彼氏がいるとは限りませんよ。そのとき、ぶるぶるとケータイが震えた。こっそり見ると律センパイからのメールだった。あ〜彼氏でしょ。ムギセンパイが楽しそうに訊いてくる。違います。私は淡々と答える。うふふ、隠したってムダよ。ムギセンパイは意味ありげに笑う。人の心は読めないって言ってはずだけど、本当だよね? ムギセンパイはにこにこ楽しそうだ。やっぱりこのひときれいだな。ニンニクくさいけど。
24:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:13:21.94 ID:lCVrPTby0
「センパイはいないんですか? 彼氏とか」
「彼氏? うーん、今はいないよ」
「じゃあ、どんなタイプが好みなんです?」
25:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:14:20.21 ID:lCVrPTby0
秋になり、冬が来て、年を越し、桜が咲いて、散った。緑のまぶしい季節を過ぎると、今週はずっと雨ばかり。梅雨に入った。
日曜日も雨だった。
朝から降り続ける雨のせいか、ラーメン屋はいつもよりさらにお客が少ない。店員さんは口を半開きにしながら、店内のテレビを眺めていた。
26:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:15:12.12 ID:lCVrPTby0
「なんですか。それ」
私はすっかり忘れていた。
スプーン曲げを見せてくれたのは初めの一回だけだったし、このころじゃもう、コイバナばかりで超能力の話は全くしていない。気づけばムギセンパイの誕生日までひと月を切っていた。18歳になってしまえば、超能力はなくなってしまう。時間があまりない。
27:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:15:57.67 ID:lCVrPTby0
「で、すごいことってなんなんです」
「どろぼう」
「はぁ!?」
28:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:18:17.22 ID:lCVrPTby0
私は思わず大声を出した。店員さんがギロリとこちらに視線をよこした。
「すみません、あの、自分でなに言ってるかわかってますか?」
「もちろんよ」
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