【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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◆DAC.3Z2hLk
[sage saga]
2019/06/14(金) 01:32:37.87 ID:DTY4fa360
〇
それから、何度か酒を酌み交わすことがあった。
例によって会話は弾まない。一人と一人で飲みながら、思い出した時に話の接ぎ穂を拾うだけ。
大きく笑うことも、泣いたり怒ったりすることもない。
お互いのパーソナルスペースの、その端と端を触れ合わせながら、静かに酒気の泉にたゆたうような。
その時間が、えもいわれず心地よかった。
彼女は自ら名乗ることはなかった。
だから、俺も敢えて聞いたり、こちらが名乗ることはしなかった。
けれど多分、あっちは俺がどこの会社の人間かも察していただろう。
もちろん俺は彼女が何者かもう知っていて、高垣さんもまた、そのことに気付いていたはずだ。
だからまあ、知らないのは建前だ。
ここでは何者でもない。
お互い、見えない仮面を被ったような関係。
だからかもしれないが、たまにはとりとめもない愚痴みたいなものを零す時もある。
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