【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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243: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/08/23(金) 00:12:40.97 ID:CdWzRgmY0

 夜は遅い。会場を出ても、ライブの音響は全身を揺らす。
 冬の夜中は、嘘だろってくらいに寒かった。


 真っ暗な大晦日、白い雪が降り続けている。

 時刻は午後11時半。会場ではカウントダウンに向け、ボルテージが上がり続けている頃だろう。


 まだだ。まだもう少し。
 俺の手には、秋の暮れに忘れ去られた女物の傘があった。
 雪が降っていたから。予報によれば、夜に近付くにつれて強くなるとのことだったから。
 いつも使うビニ傘でもよかったけど、今日に限り、これを持っていった方がいいような気がしていた。

 奇跡ではない。

 高垣さんの残した傘を差して、激しさを増した雪の中を駆け抜ける。


 時計の針が、12時を差す前に。




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