【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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◆DAC.3Z2hLk
[sage saga]
2019/08/23(金) 00:03:43.78 ID:CdWzRgmY0
今この瞬間だけ、俺は舞台を忘れた。乱れ舞う光も、響き渡る歌も。モニタに大写しの川島さんの笑顔も。
会場中をぐるっと見渡した。川島さんは言ったんだ。あの人がこの会場にいる筈だって。だけど見つけられるか?
観客の顔なんてペンライトその他の光に塗り潰されて見えやしない。そんな中で、広いドーム会場にいる一人の顔を見分けられるのか。
関係ない。川島さんはいるって言ったんだ。だったら絶対どこかにいる。
視線を巡らす。黒く蠢く人の山に色を探す。一人一人の顔なんて豆粒ほどにも識別できない。けど、そうせずにはいられなくて。
俺は、それを奇跡とは思わなかった。
当たり前だ。奇天烈な事態になんてもう何度も遭遇してる。空を飛ぶ女、謎の夜市、永遠の桜、神のような何かの話。
そうしたものを経験しておきながら、今ここにある一時の偶然に今さら驚嘆してはいられない。
観客席を照らす一瞬のストロボ。その照明の先に、背が高い女性が一人いた。
俺と同じく、天井席の隅っこ。ドームを見下ろす場所に、遠慮がちにぽつんと立ちすくむその姿が。
目が合った。
相も変わらず見惚れるほど綺麗な、紺と碧のオッドアイ。「一人」の中に「二人」存在する魅惑の瞳。
アッシュグレイの髪がライトワークを受けて妖艶に輝く。
瞬間、彼女はそっと目を伏せ、何事かを呟いて陰に紛れる。
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