【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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167: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/07/27(土) 16:02:30.61 ID:aiDwMVos0

「言ったでしょう。私も『高垣楓』ですよ」
「違う。俺はあんたなんか知らない」
「本当に? これまで一度も会ったことがないと、確信を持って言えますか?」

 だって――女は細い指で自らの唇を割り開き、ぬらつく舌を出してみせる。

「キスまで気付かなかったくせに」
「なっ」

 咄嗟に手の甲で口を隠した。触れてはない、はずだ。ギリギリで。
 今更になって頬が熱くなるのを感じる。そんな様を見て、女はころころ笑った。
 普段の高垣さんとは違う、悪戯っぽさと稚気を含んだ、年端もいかない少女のような貌だった。

「私はあなたを知っています。春からずっとこの目で見ていましたから」
「しかし……」
「花火。一緒に見ましたよね?」

 脳裏に夏のある日の出来事が浮かぶ。
 空を飛ぶ高垣さん。引き上げられる俺。乱舞する花火の光。




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