217: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/06(土) 21:27:21.29 ID:3DhfCsSR0
このみのプロデューサーは、交換した名刺をしまってからこのみの方を見た。
このみは、彼越しに控室に貼られた張り紙をじっと見ていた。
「……このみさん、緊張してますか?」
「してないわけじゃないわ。でも……丁度いい緊張、かしら。」
このみは笑って、そう言った。
今までずっとこのみの近くにいた彼には、その表情からこのみがオーディションに集中できていることが読み取れた。
「それじゃあ、俺は昼頃また迎えに来ます。応援してますからね。」
彼はおもむろに、このみに手のひらを向けるように手をかざした。
「ええ、プロデューサー。行ってくるわね。」
このみはそう言って、脚を動かした。
すれ違いざま、彼と目を合わせた後、このみは彼の手に自身の手のひらを打ち当てた。
いつもオーディション前にしている、おまじないだった。
乾いた音が辺りに響いた。
このみの手には、しばらくその感覚が残っていた。
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