11:名無しNIPPER[saga]
2019/05/05(日) 09:14:50.85 ID:OWpqcD6m0
足早に聖書台を目指そうとして、繋いだ手がぴんと水平に伸びた。
背後からこつ、こつんと足音が響く度に角度がついて、
立ち止まった俺の隣で、彼女もぴたりと立ち止まる。
手綱と化した右手から意識を逸らし、ただ前を向いて歩くことだけを考えた。
ゆっくりと、一歩ずつ、スタッフさん達の所へ近付いていく。
大丈夫だ。本来ならこういうのは親族の役目だから、何も無い。
「いつか」
楓さんがぽつりと呟いて、それきりまた静かになった。
手を握り締めそうになって、まるでそれが返答になってしまうような気がして、
全力を振り絞って脱力する。
気付けば目の前にはカメラさんが居て、大口径のレンズを向けられていた。
頬が引き攣るのと同時、小気味良いシャッター音が鳴って、たぶん隣の彼女は笑みを浮かべている。
半日も握っていたような気がする手がゆっくりと離れて、
それから何事も無かったようにスチール撮影が始まった。
いや、確かに何もありはしなかった。
その証拠に楓さんは何も言わなかったし、スタッフさん達もそれは同様で、
第一俺も口を開かなかった。
涼やかに撮影をこなしていく彼女の横顔を眺めながら、
ポケットに突っ込んだ右手を、俺はしばらく握っていた。
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