2:名無しNIPPER[saga]
2019/04/19(金) 00:07:04.46 ID:ag3VAWFs0
女はそういうと、台所へと消えていった。
包丁のトントントンと軽快な音が聞こえ、はやくもよい匂いが漂ってきた。
甘く、香ばしく、食欲を促す良い匂いに、男はごくりと喉をならす。
「召し上がれ」と、机に並べられた膳に、男は瞠目した。
何かの肉をぶつぶつと乱切りにしたものに、煮えたぎった汁がかけられている。
しかしその料理は、いったい何処から、その匂いが立ち上がっているのか理解できないほどの禍々しさを放っていた。
泥と苔を煮詰めたかのような黄土色の汁と、妙に発色のいいピンクの肉が男の食欲を急激に衰えさせる。
男は、女をちらりと横目で見、しばしの沈黙が流れる。
女の自信あふれる笑顔に観念すると、男はようやく皿に箸を伸ばした。
「あぁ……」声にならない声が、男の口から洩れた。
まずい。心の底から、男はそう思った。生まれてこの方、知るよしのなかったまずさだ。
男は、その精悍な身体つきとは裏腹に、自ら台所に立つほどに料理に精通していた。
その男をもってしても、この目の前の料理?が如何にして作られたのか、想像すらつかなかったのだ。
「どう?」
「……もう行かなくちゃ」
女の問いに答えることなく、男はスッと立ち上がった。
嘘をつくことが苦手な男は、沈黙を守った。正直な感想を言って、女が悲しむことを避けたかったのだ。
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