三峰結華「大人の味にご用心」
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2: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/04/05(金) 17:27:47.40 ID:iywvaqaG0
「……はぁ……」

 春、桜や出会いや花粉の季節。

 少しずつ上がる気温に浮き足立ち、外へ出て植物どもの撒き散らす害悪に恨みを飛ばす、そんな季節。
 先週より3度も高い平均気温に胸を踊らせ、ヒートテックを手放しマフラーや手袋をタンスの奥へと追いやった今日。
 いや、俺の判断は午前中までは間違っていなかった。
 そう、今日の午前中までは、だ。

 ズァァァァァァァァッ!!

 駅から出た俺を出迎えてくれたのは、満開の桜を吹き飛ばす肌寒い雨だった。
 天気予報では深夜から雨が降ると言っていたが、まだ18時なのに少しばかり雨雲は焦り過ぎではないだろうか。
 一瞬回れ右して改札を抜けそのまま家へと帰りたくなるが、しかしながら今日は帰る前に一度事務所に寄るとはづきさんに伝えてしまっている。
 タクシーを使う程の距離ではなく、かと言って傘も差さずに歩けば事務所へ着く頃にはプール上がりの様になってしまう。

 そして何より、寒かった。

「……仕方ない」

 駅内のコンビニでビニール傘を買い、ちらほらと水たまりの出来た道を歩く。
 吹く風は冷たく、冬がまだ忘れないでと激しい自己主張をしている様だった。
 靴が多少濡れるのは覚悟し、事務所へ向かって小走りに急ぐ。
 はづきさん、暖房付けて作業してくれてると助かるな。

「雨、か……」

 それは俺にとって特別な天気だった。

 正確には、『俺たちにとって』だが。

「ふぅ……着いた……」

 ようやく事務所が見えてくると、ラストスパートとばかりに更に足を速める。
 ビル内に入り傘を畳むと、少し息が上がっていた。
 それでも階段を駆け上がって三段跳び、着地地点はドアの前。
 あったまってくれているであろう室内に希望を募らせ、一応ノックをしてから扉を開ける。

「戻りましたー」

「あっ、お帰りなさい」

「Pたんっ!」

「ん、居たのか結華。お疲れ様」

「居たのかとは失礼じゃない? そこはもっと三峰の顔を見れた事に喜ぶべきでしょー」

 事務所内には、はづきさん以外にもう一人。
 メガネをかけた担当アイドル三峰結華が、コーヒーカップを傾けていた。




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