不死講
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12:今日はここまでです ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/02/28(木) 23:02:55.30 ID:8STyCwVV0


 非常にわかりやすい現場だった。男が一人、血を流して倒れていたのだ。
倒れた男をざっと見るに、ワイシャツが血に濡れていて首から上に何も無いことぐらいしか特に変わったことは無い。
いやまあ、かつての世界なら「首から上には何も無い」なんてのは探偵の格好の餌食となる事件ではあるのだが。

しかし妙だな。この世界の人間の構造を鑑みるに、この首から上には結婚指輪が据え付けられていたはずだ。まあ、サイズ感はこの際無視しよう。
仮に、無理やり「結婚指輪」を体から引きちぎっていったとすると現場には大量の血が残っているはずだが……。
男の体で血に濡れているのは胸部付近のみで首周りに血痕はない。結婚指輪だけに。結婚指輪だけに。

よくよく調べてみると、男の左手薬指には指輪の跡があった。
なるほど、「結婚指輪」氏は頭に据わることを良しとせず本来あるべき所にいたわけだ。そういうタイプの人間もいるのか。
先入観というものは恐ろしい、やはり現場に出て直に捜査するのも大事だな。

「さて、もう少し詳しく調べてみよう」

僕は、周囲に誰もいないことを確認し男の懐へと手を伸ばす。
男が来ているスーツの内ポケットあたりを弄ってみるも空振りに終わる。財布はなかった。畜生。
そうなると、物取りにでもやられてしまったのかもしれない。
出会い頭に胸を刺され、倒れたところで金目の物を全て持っていかれてしまったのだろう。金目の物。
そう、結婚指輪氏もその一つではないか。

 さて僕の仕事は結婚指輪氏の遺体捜索であって犯人捜しではない。しかし、状況を鑑みるに犯人を追うことが遺体を見つける近道となりそうだ。
僕は、改めて男の体を調べる。見て探し、触って探した。では次は、においでも嗅いでみよう。


 男の体からは、獣の匂いがした。


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