33:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:19:08.30 ID:M4jexkrI0
私はからっぽなのだと思います。
何をするにしても、自分の中には人に対する嫉妬だけが、それもとりわけ血を分けた肉親に対しての醜い気持ちだけしか入っていませんでした。負けたくなかった。勝ちたかった。ただそれだけでした。
だけど、追いつけませんでした。その背中はもうどれだけ追いかけても、絶対に手の届かない場所へ到達しました。
私はからっぽの人間です。
いつしか私の放つ言葉は本や音楽からの受け売りばかりで、行動も、身なりも、街やテレビの中で見る種々様々なものから、普遍的部分をくりぬいて、それを自分にあてがうだけでした。酷く劣った自分自身を、群衆に紛れてごく普通の人間だと錯覚させてくれることに、とても安心しました。
だから、からっぽなのです。
もう私には何もありませんでした。ただただ強く眩い輝きが身近に存在し続けて、それに焼かれた私は醜い影になって、このまま燃え尽きてしまえばいいと思いました。何を見て、何を感じて、何を目標に生きればいいのか、分からなくなりました。
私の懊悩は、三文小説にもならない下らないものです。
私がこの物語を傍観できる立場であったのなら、きっと最初の三行程度で読むのを止めるでしょう。
これは、ありふれた悲劇にもならない、ただ一人の矮小な人間が世界から逃げ出して、ウジウジと悩み続ける下らない話です。少し探せば、こんな物語よりももっと悲惨で凄惨で、死ぬことすら許されないほど救いのないものがいくらでも出てくるでしょう。
だけど私にとっては現実でした。現実は、どんなフィクションよりもよっぽど無慈悲でした。
流れていった涙や後悔の時間に今更しがみつくほどの未練は持ち合わせていません。過去の痛みが報われる日は、私の短い人生において終ぞやってくることはありませんでした。
もしかしたらあと十年、二十年と歳を重ねれば、いつか報われる日がやってくるのかもしれませんが、からっぽの私にはそこまで私自身を支える術がありません。
だから、からっぽの中にある僅かな思い出も言葉も、私自身が手を下して、この鬱屈な物語に幕を下ろそうと思いました。
心の傷跡は誰にも見えません。誰も見ることが出来ません。せめてこの痛みが誰かに見えたのなら、それを免罪符に掲げて、私もあの子を傷付けることが出来たのかもしれません。
だから心の傷跡が誰にも見えなかったことを、信じてもいない神様に感謝します。こんな下らない話の幕引きに傷付くのは、私一人で十分です。
未練はありません。ただ、それでも一つだけ願いが叶うのであれば。
もう一度、私が私をやり直せるのなら、もう少しだけ素直にあの子に接することが出来ればいいと……あの子とまっすぐ話すことが出来ればいいと思いました。
別れの言葉も受け売りのものです。私自身が確固たる私を持てなかったこの二十年の人生を象徴していて、きっと相応しいでしょう。
また生きて逢いましょう。さようなら。
おわり
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