33: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2018/08/10(金) 00:18:16.02 ID:OipDTOFK0
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そうして、洗髪をしてもらって、セットしてもらってすべての工程が終了する。
鏡に映った自分は、文字通り別人で、生まれ変わったようだった。
これは、あいつ、気付かないかもしれないなと少し先の未来を思って、頬が緩む。
「それでそれで。今日はこれからどこかお出かけだったりするのかしら?」
「はい。ちょっと食事に」
「あー、凛ちゃんもう一般人だもんね。デート?」
「えっと、そういうのじゃなくて。私の元プロデューサーなんですけど」
言うと、お姉さんは「あー!」と声を上げて「待ってて」とウィンクをしてどこかへ行ってしまった。
数分の後に戻ってきたお姉さんは、小さな可愛らしい紙袋を提げていて、私の目の前でその包装をばりばりと裂いた。
「これね。なんかいるでしょ、女優のなんとかって人。こないだ担当したんだけど、そのときにもらって」
散乱した包装紙の中から出てきたのは小箱で、知っているブランドの、見たこともない香水だった。
「なんか限定品? らしいんだけど、凛ちゃんにこれ、あげるわ」
「えっ、そんなのもらえないです」
「いいのいいの。いらないからオークションにでも出してやろうかしら、なんて思ってたくらいだから」
それはその女優さんに失礼過ぎるのではないだろうか。
私が何か言うよりも先にお姉さんは自分の手の甲に目掛けて一吹きした。
「うん。いいわね、これ。品があるって言うのかしら。どう?」
差し出された手の匂いを嗅ぐと、確かに言われた通りきつ過ぎない品のある香りで心地良い。
「つけてったら?」
「じゃあお言葉に甘えて」
前ならえの姿勢で手首をお姉さんに向ける。
お姉さんは香水を私につけてくれたあと、またそれを小箱にしまい直して、紙袋に戻す。
そして、私に「はいこれ」と押し付けた。
受け取らないという選択肢はなさそうだったので、ありがたく頂戴することにする。
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