9: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 00:52:15.09 ID:Ai+XpKnp0
そっともう1人の男に視線を動かすと、相手はゆったりと微笑んだ。
歳は25歳前後。瑞樹よりも少し若いくらいだろうか。
顔立ちに特に目立ったところはないが、清潔感があり、瑞樹は好感を持った。
「ごめんなさい、ちょっと……」
楽しくて、という言葉は我慢した。早苗はごく自然に、瑞樹の緊張をほぐしてくれた。
「いえ、僕も見ていて楽しかったですよ」
彼は瑞樹に名刺を差し出した。346プロダクション、プロデューサーと書かれている。
「気軽に、P君と呼んでください」
「名前はいいのかしら」
「このプロダクションに入ると、戸籍が抹消されて名前がなくなっちゃうんです」
瑞樹は、くっ、と吹き出した。彼はだいぶ多忙らしい。
「それじゃあP君。
企画の方からある程度説明は聞いてるんだけど、プロデュースについて詳しく聞かせてくれるかしら」
「はい」
プロデューサーは会議室の電気を消し、プロジェクターを起動した。
瑞樹は早苗と、1つ席を空けて隣に腰掛けた。
すると、早苗の方が席を詰めた。
「夜風が冷たいの」
「今は昼間だし、暖房も入ってるわ」
「つめた〜い」
早苗がけらけらと笑った。瑞樹は戸惑った。
30手前になった得たものは、空虚な名誉と、他人に対する警戒心ばかりだと感じていた。
女子アナになったばかりの頃、同世代のアナウンサーの大半は敵だった。
早苗もアイドルになって自分と似たような経験をしたのではないのだろうか。
どうして、こんな風に無邪気でいられるの?
どうして、私はこんなにいい気持ちなの?
「それでは『川島瑞樹育成計画』について、今から説明いたします」
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