13: ◆36RVFTz/1g[saga]
2018/07/30(月) 10:31:24.39 ID:QGxw4N5io
【 武蔵 】
故郷九州で酒といえば焼酎を指す。
抹茶碗になみなみ注いで、水を差さずに直に飲む。
麦酒のように軽くない。清酒のように甘くない。
それがいい。
がぶりがぶりと噛むように、大きめの腕を空にする。
夕暮れのぬるい風と夏の匂い。
鍛錬場の板張りはひんやりと冷たく、心地良かった。
「空酒はよくないですよ」
声にふと目を遣れば、清霜がぽつりと立っていた。
いつの間にそこに居たのか。つまみを持ってきたという。
空酒なんて言葉、よく知っていたな。
そう頭を撫でると目を細め大きく笑った。
「あんまり飲み過ぎないでね」
来た道を早々に戻る様は、忙しなく。
小さな風の過ぎた後に、夕暮れはまた平穏を取り戻す。
わざわざこの為だけに来たのだろうか。受け取った包みはまだ温かい。
冷めないように、待たさぬようにと、恐らくは駆けて来てくれたのだろう。
周りの者に気を遣い、言われなくても自ら動く。
口にするのは容易いが、誰にでも出来る事ではない。
……知らぬ間に、大人になっていたのだな。
消えた背を眺める先に、潮の音がひとつ遠くに鳴った。
包みの中身はパンケーキだった。
そうか、うん、パンケーキか。
夕焼けが綺麗だった。
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