3:名無しNIPPER[saga]
2018/06/04(月) 23:33:01.77 ID:YLTvfUA90
《橘ありす「男女間で純粋な友情は成立しないので長年の相棒って言葉は実質嫁といっても問題ないですよね」》
◇
憎々し気に窓ガラス越しに目下のコンクリートジャングルを見下ろす姿に思わず苦笑いが零れた。
今も昔も、ころころと感情の賽の目を指先で転がすように変化させる姿は見ていて飽きません。
「……現役女子高生に若さを諭されるの納得いかないんだが」
「事実ですし」
なるべく素っ気なく。
私は意識して言葉を返す。
たった二人きりのちいさな、ちいさな事務所。
ちいさいにもほどがあるこの場所が、この場所こそがいまもむかしも、私のほとんどを占めていた。
ふと、向けられている視線に気づきます。
穏やかな、静かな瞳でした。
最近になって向けられることの多いこの視線。
理由は実は分かっていました。
そう遠くない先、最盛期を超した"橘ありす”という偶像の樹木はその歴史に静かにその幕を下す。
そう決めた時から、少しずつ二人で準備はしてきました。
プロデューサーと相談して少しずつ仕事を減らし、継続で頂いていたお仕事に打ち込み、そしていずれそれを最後に私はこの姿から姿を消す。
―――そして、私は、なるのだ。なって、しまうのだ。
―――――プロデューサーのお嫁さんに……!
思わず、拳をシャープペンごと強く握っていたこと気づいた私は慌てて力を緩めた。
しかし、思い返せば、長く険しい道のりでした。
小さな頃から抱えていたこの胸を焦がす思慕の情。
幼いころに待てるか、と聞いてあの穏やかな瞳で頷いてくれたあの表情は未だに脳に焼き付いています。
もうすぐ、もう間もなく、私は約束を果たせる。
心臓がとくんとくんと脈打っているのが自分でも分かる。
脈打つ心臓に突き動かされるように唇が声を紡いだ。
「もうすぐですね」
彼にも、長いこと待たせてしまいました。
それでも浮名一つ流さず、私を想っていてくれたのでしょう。
……誇らしいです。
プロデューサーは少しだけきょとんとした表情を浮かべてから、「あぁ」と、ようやく思い至ったのか表情を変えた。
真剣な表情が私を見据える。
少しでも誠意が真っすぐに伝わるように、そんな彼の気持ちが伝わってきます。
……でも、ちょ、ちょっとそんなふうに見られると、やっ、そのっ。
「しっかり準備はしてるから」
「そっ、そうですか」
準備、なんて……そ、そんな……。
ど、どれだけ……。
どれだけ私のことだ、大好きなんですかねっ……!かねっ……!
しょうがない人ですねっ!うぇっ、へへへ……!
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