22:名無しNIPPER[saga]
2018/06/06(水) 20:55:34.09 ID:tfnsu6Oi0
《モバP「めっちゃいい子だよねこの子」》
◇
お偉いさんの言う、「キミもいい歳なんだから、家庭を持ったらどうだい?」って類の言葉ほど胡散臭い言葉もないような気がする。
というか、持とうと思って持てるもんなのそういうの。
こう、そういう活動してるの万が一、うちの橘お嬢様に知られたら「うわっ、こいつめっちゃガツガツしてるんだけど、こっわ」とか思われない?
いや、むしろ全くそういう素振り見せないほうが不自然で怖い感じなのだろうか。
仲のよさ、という面でそう、悪くない感じなんじゃないかな、とひっそりとは思ってはいる。
と、いうのも仕事の都合上交流のある人たちを見ていると比較的に、といった感じではあるのだが。
結局のところ中高生の女の子といい歳したお兄さんなので、尋ねにくいこともある。
ありすへと視線を向ける。
昔と比べれば、すらっと背丈も伸びて、顔立ちから幼さが消えた。
―――勿体ない。
一瞬だけ、そんな感情が浮かんだのを、慌てて振り払う。
ここではないどこか、普段から都合よく威を借りまくっているでかいところでデビューして、沢山の仲間たちに囲まれて夢を追い続ける。
そんな未来もありえた、いや、これからだって出来得ることだ。
橘ありすは未だ枯れていないのだから。
思わず、口が開いた。
「一個だけ聞きたいんだけど、さ」
「なんですか?」
「俺でよかったのか?」
ありすは、唐突な質問に瞳を丸くする。
そして、少しの間だけ思案する素振りをして、柔らかく微笑んだ。
「あなたがよかったんです」
正直、少しだけ泣きそうになった。
めっちゃいい子だよねこの子。
「……飲めない癖に外の自販機でブラックのコーヒー買って来てたようなお子様が成長したんだな」
「なッ!? あっ、……そ、そういうことは忘れてくださいっ!」
「今だから打ち明けるけど俺は恰好付けるためと外向きの時だけ平然とコーヒー飲んでたけど本当はコーヒー苦くて大っ嫌いだから」
「はぁっ!? 当時そのことで、すっごい私のことバカにしてたじゃないですか!」
「俺も若かったよね」
「若さアピールは免罪符じゃないです!……というか、なんで今更そんなこと打ち明けるんですか」
やや、ぶすっとした表情で吐き捨てるようにありすは言う。
「知っておいてほしかったんだよ。なんとなく」
「……へ?」
「もう少しだからほら、俺の汚点っぽいことも晒しておこうかなって」
思わず言葉が零れ落ちた。
長い付き合いの終わり、その最後を静かに感じつつあるからこそだろうか。
「…………もう少し、そうですね。くふ、もう少しですもんね」
なぜか、俺を見上げるありすの視線に熱っぽいものが混じったように感じた。
俺一人で抱えている女々しい感傷なのでは。
と、そうも思ってもいたのだが、そうでもなさそうで、思わず俺も頬が緩んでしまった。
52Res/35.90 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20