【ガルパン】エリカ「私は、あなたに救われたから」
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928: ◆eltIyP8eDQ[saga]
2019/03/02(土) 22:15:08.61 ID:d4D1O6AS0





2月も半ばを過ぎたある日の夜、みほは学園艦ではなく陸に、もっというのならみほにとって実家『だった』西住邸の応接間にいた。

そしてそこで彼女の母『だった』しほとテーブルをはさんで向かい合っていた。


しほ「みほ、あなたには転校をしてもらいます」


そう言ってしほはテーブルに一冊のパンフレットを差し出すように置く。


「大洗女学園……?」


聞いたことも無い学校名が書かれたパンフレットにみほは訝し気な表情をするも、何も言わずパラパラとそのページをめくりだす。


「……え?」


突然、あっけにとられたような声がみほの口からもれる。

何度も手元のパンフレットに目を落とし、一通り読み終わったはずなのにまた一から読み直し、そして呆然と呟く。


「なんで……ここ、戦車道が無い……」


何かの間違いではないか。そんな視線をしほに向ける。しかし、しほの表情は揺るがず、それが答えだった。


しほ「……あなたは、少し戦車道から離れるべきです。ちゃんと病院に行って、ゆっくりと学生生活を送って、自分を……労わりなさい」

「そ、そんなっ!?どうしてですか師範っ!?」

しほ「私は、あなたの母です」


取り乱し声を荒げるみほに対して冷静な、けれども絞り出したかのように掠れた声。

みほは一瞬喉が詰まったように呻くも、ゆっくりと深呼吸をして冷静さを取り戻す。


「……師範、考え直してください。今私を失うことが黒森峰にとってどれだけ打撃を与えるか」

しほ「私は、あなたのほうが大事です」


それは西住流の師範の言葉ではなく、ようやく口に出せた母としての言葉だった。


しほにとって家族は大切なものであった。しかし、流派もまた大切なものであった。

未だマイナースポーツでこそあるものの、戦車道の流派として日本最大の規模である西住流。

その実質的なトップであるしほはその一挙手一投足に立場と責任を求められる。

自分の言葉が、行動が、門下生はもちろん数多の関係者たちの未来を変えてしまう事をしほは良く知っている。

だから、常に自分を厳しく律し、娘にもそうあるべしとしてきた。

たとえ冷たいと、親として失格だと思われようとも。

しかしどれだけ冷徹であろうとしようとも、どれだけ冷徹に振舞う事が出来ても、心はそうはなれなかった。

去年の決勝で起きた悲劇。それを忘れた日なんて無かった。

失われた命があった。心身ともに傷ついた生徒がいた。その中に娘たちがいた。

嘆き悲しみ、塞ぎ込む娘たちに何を言えばいいのかわからなかった。

しほに出来たのは後処理と、自らに責任があると事故の当事者たちに伝える事だけだった。

引きこもり、誰とも会わなくなったみほを扉越しに呼びかけても帰ってくる返事は無かった。

結局、またしてもみほの事をまほに任せて、報告を受けるだけだった。


そして、娘は自らを捨てた。




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