かおり先生の思い出
1- 20
12: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:42:14.56 ID:FdqHMIMA0
だけど、今でもその時の自分はバカだと思ってる。
俺はかおり先生に「いつ戻ってくるの?」って聞いたんだ。残酷だよな。先生、その時だけちょっと目線が逸れて、でもすぐ「ごめんね、もうちょっとだけかかるかな」って笑ってたよ。「ちょっと」って、子供納得させるのには便利な言葉だよな。解釈は相手に任せられるし、それに大人と子供じゃ自分の人生で測れる長さには大きな差がある。だから、かおり先生はちょっとすれば戻ってくるんだと思って、その時の俺はすぐ納得したよ。


13: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:44:30.54 ID:FdqHMIMA0
だからまぁ、今からの話はそんなアホに下った罰っていうか、優しすぎたかおり先生に代わって誰かが俺に現実を突きつけたとか、そういう話だと思ってもらっていいよ。全部昔の話だし。だから、全然気にしなくていい。
でも俺は、その日を境に音楽教室にはもう行かなくなった。



14: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:47:23.97 ID:FdqHMIMA0
俺、その日わざと遅くまで残ってたんだ。まぁ、頑張ってるよってアピールしたかったってのもあるんだけどさ。さっきも言ったけど俺は家と教室が近くて、歩いて帰ってた。でもたまにレッスンが遅くなる時があって、その時は先生と帰る時間も一緒になることが多かったんだ。しかも途中まで一緒の道だったから、二人で色々話しながら歩いたりしてな。いやもうマセガキだよ、直接「一緒に帰ろう」って言いたくないから、先生が帰るであろう時間帯に合わせて外出て、偶然帰り道で会おうとしたんだよ。自分で言ってて恥ずかしくなってきたわ。まぁそんなことを夢見た俺は、いつもよりレッスンに打ち込んで、いつもより遅くに学校を出た。


15: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:48:24.17 ID:FdqHMIMA0
そしたらさ、外に見慣れない黒い車が一台停まってたんだ。教室の真ん前にデーンと。なんかさ、見なれた風景に一つだけ違うものがあると、やけに目立って見えるじゃん。だから、そこは鮮明に覚えてる。でもそれだけだよ。別に停まってるからって特になんとも思わなかった。その時はな。


16: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:49:32.05 ID:FdqHMIMA0
まっすぐ家に帰らないで途中にあった公園、あぁそうさっき俺泣いてたとこ、そこのブランコに、あぁそう俺さっき泣いてたとこ、しつけぇな別に泣いたっていいだろ。子供の頃だぞ。とにかくな、そこのブランコにちょこんと座って、遊んでたって言い訳できるようにすこーしだけブランコ揺らしてな、そうしながらかおり先生はまだかなって少しドギマギしながら、右から左に流れてく人たちをずっと見てたんだ。
ただ、いつまで経ってもかおり先生は歩いてこなかった。でも代わりにな、さっきの車が通ってったんだよ。



17: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:50:10.49 ID:FdqHMIMA0
あぁごめんな、ちょっと説明不足だった。かおり先生は歩いてこなかった。その車に乗ってたんだ。左側にな。


18: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:50:58.71 ID:FdqHMIMA0
訳分かんなくなったよ。どういうことだって。で、気が動転した俺は多分その時一番の最悪手を選んだ。
もう分かるだろ。俺は公園を出て、先生といつも別れてた道、先生がいつも帰ってた道の方へ進んでったんだ



19: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:52:18.18 ID:FdqHMIMA0
先生の家は知らなかった。でも、さっきの車が停まってればそんなもん子供でも分かる。
邪魔してやろうなんて微塵も思ってなかった。せめて、見てやろうって思ったんだ。車の近くまで歩いてって、通りすぎるときに、じっとじゃないけど、横目で、車の右側を覗いた。


20: ◆.qG5SOGbi.
2018/05/22(火) 23:52:51.53 ID:FdqHMIMA0
見えたのは、誰だか知らねぇ男の頭と、そいつの背中に絡み付く細い両腕と、かおり先生の閉じた目だった。


21:名無しNIPPER[sage]
2018/05/22(火) 23:56:07.82 ID:4QMPdKTs0
これは泣ける...


32Res/10.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice