141:ブレイクタイムでもなく本編に関わりは多分ないと思う幕間 ◆e6bTV9S.2E[saga]
2018/08/22(水) 16:28:57.22 ID:aVuPWMDm0
『命の価値は』
「命に価値か。そもそも、お主の言う価値とはなんぞえ?」
「…。あってないもの、だな」
その言葉に、オリジンは少し驚いたような表情をしてから、嬉しそうに、それこそ大げさに頷いた。
「ほう。同じ意見じゃよ。お主、本当は私と同い年であろう?」
ないと、きっぱり言い切る放浪者に、オリジンは冗談のわからぬ奴と首を振る。表情自体は、悪だくみを含む笑みからして、それらの答えを悪くは取っていないようだ。
放浪者の価値に関する答え。それ自体を言える者は、恐らくは少ないだろう。そもそも、そんなことを問われることは命に関わる人間でなければ、その命を意識することもない。命を消費して、生き続けているにも関わらず、生き物(ひと)はいつしか、そうであることを当たり前だと思い込む。
今は死と隣り合わせの世界であるが故に、大なり小なり生存者達は命のことを意識はしているだろう。だが、結局安寧が戻れば、人々はいつしかその意識を忘れ去る。
「そうじゃな、価値とはあってないものじゃ。私が奪う命そのものに、何か違いはない。言うなら、私自身に優劣がある。それが価値の正体じゃ」
「…。俺の奪う命も、変わりはないということだな」
その通りと、今度は真顔でオリジンは答える。その答えを受けた放浪者は、相変わらず無表情のままだ。
「全てを守り切ること、全てを救いきること。伝聞でお主が今までやってきたことは、私にとっても奇跡じゃが…。今言ったことは、奇跡ですら到達できぬ領域じゃ。諦める必要などはないが…、そうであることを忘れんようにな」
「…肝に銘じておこう」
出来る次元が違う場所にいる人間だとしても、けして踏み込めない場所もある。確かに放浪者は、仲間を救い続けてきた。だが、そこにある結果は相対する敵を全て屠ってきたという事実がある。ならば、全ては救えてはいないのだ。
だからこそ、命の価値はと、自分に聞いてきたのだろう。オリジンはそう思い、邪魔をしたなと声をかけ、去っていく放浪者のおぼろげな後姿を見ながら思う。もう1つの答えを。
「……。だから同時に、価値とは相手に与えてもらうものなのじゃよ」
自分が決める自身の価値は、机上の空論。相手が決める自身の価値こそが、本物。そしてそれは、移りゆく季節のように、儚く変わり続ける。
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