135:ブレイクタイムでもなく本編に関わりは多分ないと思う幕間 ◆e6bTV9S.2E[saga]
2018/08/06(月) 02:02:10.74 ID:KRsTJUiT0
『人工的超常現象発現能力』
「飛べないと?」
空中に逃げた放浪者は、眼前に迫る芸良の姿を見て――突撃した。彼女もそれを認識して一瞬目を開いてから、念動力(サイコキネシス)を発動させた瞬間、自身を浮かす力が、消えた。
驚愕と共に、地面に落下しながら気づく。そのからくりのものを、いともたやすく放浪者は破壊していた。恐らく、ビジョン経由で自分の力を知っていたから、いや、それでもこのシンプルな力だけに、そこまでの想定をする人間は。
「……ふん」
行動の枷になる思考を一時切り、そのからくりを再度使う為、手ごろな瓦礫を引き寄せて着地する。自身には影響はない、といった超能力に対する例外はあるものの、基本それ以外の外部には影響を与える。それがこの念動力。
――すでに影響を受けているものに、自身が触れることはそれに何ら関係はない。
浮かべた瓦礫に乗ってから反転し、放浪者に瓦礫の雨を降らせる。念動力で強化された気配の察知が、他に比べようもなく微弱なそれを掴み、回避されたことを認識する。
「(人間…?)」
芸良は少なくとも、自分達超能力を特別と考えていたことで、リーダーとして超能力者をまとめていた時に、人間とは別な存在であると説いてきた。それに影響を受けたメンバーも多く、それは良い事ではけしてなかったが、それでも超能力者として迫害された処世術なのも確かだった。
その彼女ですら、放浪者に対する評価はそれだった。そして彼にとって、いつも通りの反応でもある。
次に彼女が放り投げたのは、大小さまざまなナイフ。面を埋めるように、瞬く間に放浪者へと飛んでいく。受けきるにはそれはあまりに膨大で、先ほどと違い突き刺すという明確な死のダメージを想像させる。スパイダーウィップを使い、上空へと逃げるがナイフはそれに着いてくる。速度も上がり回避をするのは刻一刻と、難しくなってきた。
「……!」
あろうことか、放浪者はまた自分自身に突撃してくる。その背後には自分自身が巻いた大量の刃物。そしてそれは、自身がつけた加速によりもはや急速に止めるのも難しいのは、その超能力の効果で理解できる。
側にあった大きな瓦礫を浮かせ、盾とする。その向こう側で放浪者が瓦礫を蹴り、上へと飛ぶと、後を追っていた刃物が事故のように突き刺さるのを芸良は感じ。そして、歯噛みする。
特殊性は、それこそ超能力者の特権であるという考えが、彼女から柔軟な思考を失わせている。怒りのまま、感じられる放浪者がいるであろう方を向くと、電柱の上で彼は彼女を見下ろしていた。そこにあったのは、無機質な目。感情を伴わない眼差し。それと同じように気取れぬ存在感。
その感覚を忘れていたのは、いつからだったか。背筋をなぞる冷気、それを久しぶりに彼女は感じた。恐怖、それは確かに恐怖なのかもしれないが、正しく言うなら未知。
「(人…間…?)」
再び同じ問い。だが、そこに混ざるのは理解できないという未知がある。惨劇後における、彼女の経験は間違っても薄くない。敵の徹底排除を肯定し、好戦的である以上、他よりも濃いと言っていい。その上で、放浪者はそのどれにも当たらない、アンノウン。
ボソリと呟かれた、任務を続行する。その言葉さえも、今の彼女には理解が難しかった。
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