2:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:29:32.49 ID:sJCGNEgZ0
幼い頃、私は目を閉じればどこにでも行けた。
3:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:29:59.99 ID:sJCGNEgZ0
大きな翼、頑丈な顎、鋭い牙から漏れる焔。
最強のドラゴンの背に跨って、ありとあらゆる冒険に出かけるのだ。
人と精霊が交わり穏やかに佇む水上都市。
蜃気楼の先にある熱砂の大迷宮。
4:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:30:26.70 ID:sJCGNEgZ0
幾度旅をしても、私の中の白地図は埋まることはなく、
それどころか出立の度に余白が広がる。
ああ、なんて楽しく、素敵なものが溢れているのだろうか。
5:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:30:52.43 ID:sJCGNEgZ0
しかし、そんな無垢な少女時代は時間と共に終わりを告げ、
私は一介の女学生となり、あの冒険の日々もいつしか思い出すこともしなくなった。
そんな中、今になって昔の冒険のことを思い出したのには理由がある。
それというのも、今日は久々の連休で、朝から何も用事がなかったため、
6:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:31:18.35 ID:sJCGNEgZ0
私が出不精だからだろうか、通りの端に見覚えのない小さな店がある。
うーん、最近できたところなのかな、と思いつつ、漂う妖しい雰囲気に負けて覗き込んでしまう。
見たところ、古道具屋…… いや、魔道具屋だろうか?
棚から壁から、古めかしい、如何にもなオーラが漏れ出ている品々が自己主張をしてくる。
7:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:31:50.46 ID:sJCGNEgZ0
うわー、うわー……。
正直、楽しい。
本物か偽物かはわからない、でも確かな物語を感じる。それだけで楽しい。
そういえば、自分で想像を働かせることはなくなって、本を読んだりするだけになってしまったなあ。
自分の成長、もしくは退化に一抹の寂しさを覚えつつ、あれはなんだ、これは高いな、と物色を続ける。
8:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:32:21.10 ID:sJCGNEgZ0
他のアイテムとは違い、強烈に惹きつけられるモノは何もなかった。
ただ、なぜだかこの銀時計を手に取ると、言いようのない安堵に包まれるのだ。
値段もお手頃でより安心感が増す。
結局、財政的な事情から銀時計以外のものは見送ることにした。
9:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:32:47.50 ID:sJCGNEgZ0
その後はいつもどおり、数冊を返却、数冊を物色し寮に戻る。
唯一の女子らしい趣味を自分だけに披露。
うん、今日はリーズルのタルトがいいかな。
休日の昼下がり、自室でお菓子とお茶を楽しむ。
10:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:33:13.45 ID:sJCGNEgZ0
……。
翠色の巨体が、久しぶり、大きくなったねと私に語る。
そりゃあ10年も経ったからね、そっちは元気だった? と返しつつ、これは明晰夢なのだろうと思う。
11:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:33:39.42 ID:sJCGNEgZ0
それにしても、どうしてだろうと思いつつ、夢なのに現実感に溢れることに気づく。
……ほむ。
ドラちゃんが言うには、あの銀時計も魔道具だったのだと。
持ち主の思いに反応し、過去の存在を呼び覚ますものなのだと。
12:名無しNIPPER[sage]
2018/05/06(日) 17:34:05.29 ID:sJCGNEgZ0
こうして私は、ドラちゃんとの冒険を再開した。
毎晩毎晩、悪の手先を打ち砕き、喘ぐ民衆を救い、残された上代の謎を解き、白地図を広げるのだ。
ああ、なぜ私はこんなにも楽しいことを忘れてしまっていたのだろう。
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