19:名無しNIPPER[saga]
2018/05/05(土) 18:29:24.70 ID:6HNBSVHX0
「ですが……中でも昔。奈良、万葉集の頃、『花』は『梅』を指していたそうです」
「梅?」
「あるいは桃を。宮中が習っていた大陸由来の文化でしょう」
とすると、何かが違っていればこの辺りは一面梅だったかもしれない訳だ。
危ないところだったなと見上げてみても、彼らは涼しい顔で揺れている。
「花見の起源は宮中の梅木鑑賞会だとも言われています」
「なら、昔は梅見で、今は桜見と呼んでいたって不思議は無い筈だ」
「ここからが推測になりますが」
気付いたように肇が髪を撫でる。
伸ばした指先には桜の花びらが摘まれていて、すぐどこかへ飛んでいった。
「主流がどうあれ、人は自らが心乱される花こそを愛でたいのではないでしょうか」
「つまり?」
「つまり……桜でも梅でも……花見は、自由であっていいと思うんです」
言い終えてからしばらくして、肇が小首を傾げた。
顎に指先を添えて、しばらくうんうんと唸って。
少し照れたように笑い、俺から視線を外して桜へと笑いかける。
「……すみません。上手く纏められませんね」
「いや、何となく言いたいことは伝わったさ」
「文香さんのように弁が立てば良かったのですが」
なるほど。
恐らくだが、今の話には鷺沢さんから伝え聞いたものも含まれているのだろう。
学ある人物の傍で過ごすと、自然知識も身に着いてくる。
「前置きがここまで長くなってしまいました」
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