高垣楓「おでん」
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5:名無しNIPPER[saga]
2018/04/14(土) 23:13:16.05 ID:HxHKUsXj0


 『ここにしませんか? いえ、ここにしましょう。屋台飲みって憧れだったんです、私』
 『構いませんが……ちょっと入り辛いですね。こういう店って常連さんで埋まってそうで』

防寒用の幕の向こうで二人が話し込んでいる。
間違っちゃあいない。だいたい常連のお陰で保ってるような、店とも言えないような店だ。
さて、どうなるか。

そんな事を考えていると不意に幕が揺れた。
竿に吊された四つ切り暖簾を手で別けて、女らしき方が小さな顔を覗かせる。

 「あの、すみませわっ」
 「……楓さん? どうしまわっ」

外気でキンッキンに冷やされただろう二人の眼鏡を、舟から立ち昇った湯気が一瞬で曇らせた。
二人が慌てたように眼鏡を外す。
男の方は何だか冴えないような兄ちゃんで、女の方は何だかよく分からないぐらいの別嬪だった。
何だコイツら。

 「あの……やってます?」
 「見ての通りだ。まずは入んな、冷えるだろ外は」
 「お邪魔します……」
 「らっしゃい」

どこへ座りゃいいのか迷ってるらしき二人に、長椅子の真ん中を指差した。
本来なら五人掛けだが、まぁ、今日はもう他に客も来るまい。
こういう時の俺のカンはよく当たるんだ。悲しいくれぇに。


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