工藤忍「おかしなうさぎは夢見て跳ねる」
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40: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:04:03.27 ID:X17K8DuQ0


「あのね……えっと、うんと、あのね……」

「アタシ……あぁ、違くて」

「あのっ。な、なんで歌って踊る練習をしてるのか気にならなかった?」

 それはずっと隠されてきた秘密で、もう僕も気に留めてすらいなかったことだった。
 忍は努力家なんだということだけが分かっていればいいと、そう思っていた。
 それでも、知ることができるならなんでも知りたい。忍にはきっと何か夢があるんだろう?

「気になったよ」

「ん、んと、あのっ……」

 忍が顔を上げる。その目元はどうみても涙を我慢しきれていなくて。
 そして瞳の奥にかすかな期待の色を見たような気がした。

 忍が息を吸う音がやけにはっきりと聞こえる。
 今この瞬間だけ時間がゆっくりと流れていって、次第に世界が止まってしまいそうになる。
 僕は次の言葉を待つのに身体が小さく震えるのを感じた。


「アタシね、東京でアイドルになりたいんだ」


 あいどる。アイドル。
 うわ言のように頭の中で繰り返して、ようやく理解が追いついてくる。
 あの忍が? アイドルだって? 

 確かに歌って踊るようなものだけれど、なにかの冗談だと信じて疑わない。
 でも、言い切った忍の顔に笑うところは何ひとつなくて。
 僕はその言葉を飲み込むしかなかった。


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