14: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 11:41:38.89 ID:X17K8DuQ0
「どう? キーとかアクセントとか、それに最後のサビは自信あるよっ」
鼻息荒く自信に満ちた表情で、忍は録音の再生を急かす。
自分が初めて録音してみた時の記憶を思い出しながら、このあとの言葉を考えながら、僕はボタンを押した。
「……」
「……」
「えっ、アタシ、こんなんなの!」
あぁ、やっぱり。
録音した自分の声は、不思議と自分のものだと認識できないものだ。
カラオケやお風呂場で歌っているだけじゃ、本当に歌が上手いかどうかは分からない。
「まぁその、音は合ってたと思うよ」
楽しそうに歌う人は好きだ。それはそれとして、忍が上手いかと聞かれたら、僕はなんとも言えなかった。
声はよく通るし、音も多分合ってると思うけれど、なんというか……フツウ?
「えーっ……歌は譲れないものがあったのに……」
さっきまでの表情は一瞬で枯れた花のように萎れた。
僕はなんとか慰めようとするけれど、褒めすぎず傷付けすぎない言葉が見つからない。
ぐるぐると考えていたせいで、結果的に訳が分からなくなって本音がぽろりと落ちる。
「……ダンスよりはマシじゃな、あっ」
「……ふーん」
今度は明らかに機嫌が悪い顔になったけれど、すぐにその険しさは緩んでいく。
その表情に安心しつつも、僕は表情がころころと変わる忍を可笑しく思う。
「いいよ、ダンスが苦手なのは分かってるし」
「そ、そう」
「これからたくさん練習すればいいんだもんね! よーし、努力あるのみだよ!!」
気合を入れ直したように忍は練習スペースに戻っていく。
僕は音量を絞って、もう一度忍の歌声を聞いてみる。
その歌は、やっぱり上手くはないけれど、なぜだか好きだと思えるような気がした。
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