小日向「先輩! 今日はいっしょに帰りませんか?」【お散歩M@STER】
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23: ◆p//0egHBTakZ[saga]
2018/04/04(水) 22:05:50.75 ID:CHvXIyns0
「おっちゃん殿、ライラさんはブルーハワイをひとつお願いしますです」

「えっと……私は苺ミルクで!」

「私はマンゴーでお願いしますね」

「あいよ! そこの兄ちゃんは決まったかぁ?」

道命寺の参道の一角。ピンク色に塗装されたガーリーな移動販売車の中から、どだい不似合いな野太い声が飛んでくる。

「んー、それなら、メロンで」

「あいあい、お勘定はこっちね。そんじゃあそこに座って待っとってくれや」

僕らは“おっちゃん殿”に促されるまま、移動販売車から伸びる庇の下のベンチに腰かけた。

これもやはり、いかにも乙女チックなセンスの代物で、こういうのを何て呼ぶのかは知らないけれど、
映画とかで白雪姫なりシンデレラなりが座っていそうな、真っ白なベンチ。

販売車の中や僕たちが座っている足元にも、ところせましと造花やぬいぐるみが並んでいて、
今目の前で演歌調の鼻歌を歌いながらかき氷にシロップを垂らしている“おっちゃん殿”の店とはとても思えないのだけれど……

「あ、こんなところにくまさんが! かわいいですね〜」

小日向さんが、ベンチの下のレンガタイルに座っていた、小さなくまのぬいぐるみを拾い上げる。

「ほんとだぁ。このかき氷屋さん、なんだかとっても女の子向け、って感じですね。メニューもおしゃれなのがたくさんありますし」

高森さんの言う通り、カラフルに彩られたブラックボードのメニューには、見たことのないような名前のメニューが並んでいて、
見本写真はどれも“インスタ映え”しそうなものばかりだ(そしてそれなりに高い)。

ライラさんは慣れているようだけれども、自然、僕たちの視線は、年季の入ったエプロンを掛けた、脱サラ中年風の“おっちゃん殿”の顔に集まった。
“おっちゃん殿”もその視線に気づいたようで、しばし手を止めて、バツが悪そうに首をぽりぽりと掻く。

「ああ、なんだ。よく言われるんだがな、この店のしつらえは俺の趣味ってわけじゃなくてよぉ……おーい、ミサキ!」

“おっちゃん殿”が販売車の奥の方に声をかけると、「はぁい」と返事が返ってきて、エプロン姿の女の人が首を出した。

「なぁに? おっちゃん…って、ライラちゃんだぁ。今日も来てくれたんだねー☆」

「ミサキ殿、また来ましたですよー」

なるほど。だいたい分かった気がする。

「いやー、一昨年までは俺一人でやってたんだけどな、いっぺん姪っ子のこいつに手伝いを頼んだら、ドハマりしちまってよぉ。
ま、この方が若ぇ子らには受けがいいみてぇだし、文句はねぇんだが」

「そぉそぉ。雑誌の取材だって受けたことあるんだからぁ。ライラちゃんのお友だちちゃんたちも、これからもよろしくー☆」

ミサキさんがウインクをすると、まるでメイクばっちりのまつげから星のかけらが飛び散るようだ。

「OL辞めるなんざ言い出した時は驚いたがなぁ……おっと、融けねえうちに食べてってくれよ」

いつの間にか、売り台の上に色とりどりのかき氷が並んでいる。縁日の屋台で売っているようなのとは違って、綿のようなふわふわのやつだ。

「わぁ、さっそくいただきますねっ……んん〜、おいひ!」

「シロップも濃厚でおいしいですね♪」

「ライラさんのお気に入りでございますよー」

なんだかグルメリポートじみてきたなぁ、と思いつつ、自分もひと口。

「やったぁ、ちょーうれし〜! シロップはあたしの特製なんだぁ。
あ、そうだ! ちょーど今、夏の新作の試作品を作ってたんだけどぉ、けっこう自信作ができそーだから、後でサービスしてあげる!」

「え、いいんですか? やった♪」

「アッハッハ。むしろタダで毒見してくれるってんなら大歓迎ってもんだ。
いつも俺が最初に食わされるんだからよぉ」

「も〜、おっちゃんひどーい。じゃ、ちょーと待っててねぇ☆」

そう言うと、再びミサキさんは販売車の奥に引っ込んでいった。中は厨房みたいになっているんだろうか。

「楽しみだなぁ、新作かき氷。よかったね、ライラちゃん」

「〜〜、急いで食べたら、頭が痛くなりましたよー」

目をつぶって、両手で押さえた頭をゆするライラさんに、皆の間で朗らかな笑い声が起こった。
ライラさんの痛む頭を撫でるように、涼しい風が参道を通り抜けていく。
お散歩合戦の話のネタも、まずは一つ目……かな?

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