5:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 18:51:16.09 ID:q6OJlgc60
ここに至るまでに、私が舞台に立つだけのことをしたと信頼されているから、これだけ言葉が少ないのだと気づいたのはいつだろうか。
パッとは思い出せない。
今日のこのライブが終わったらゆっくり思い返してみることにしよう。
今は目の前のお客様のために集中するだけだ。
心地のいい沈黙が部屋を包む。
6:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 18:52:45.71 ID:q6OJlgc60
「パッとしない天気だな」
ブラインドの隙間から窓の外を見やり、プロデューサーは私と同じ感想を漏らした。
どことなくそれがおかしくて、私は思わず笑った。
不思議そうな顔をしてプロデューサーが私の方を見る。
「ライブが終わったら教えてあげるよ」
7:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 18:53:13.22 ID:q6OJlgc60
「それじゃあ行ってくるね。 プロデューサー」
「おう。 しっかりな」
いつも通りに肩を叩かれ、私は舞台に上がる。
25歳の、10年間Dランクに居続けたアイドルの引退ライブが始まる。
8:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 18:54:32.59 ID:q6OJlgc60
Cランク、通称メジャーアイドル。
「二五歳までCランクに行けない者はアイドルとしては大成しない」と言われる。
トップアイドルになるための、ようやくの入り口。
14歳の時、私はアイドルになった。
ちょうど日高舞が引退して、アイドル戦国時代が始まろうとした時期であった。
9:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 18:55:11.50 ID:q6OJlgc60
事務所と提携していた作曲家の先生に挨拶に行き、デビュー曲を貰って、同期の子たちと一緒に中野サンプラザでそれを歌い、踊った。
忘れもしないあの夏の日。
その日、私はアイドルとしてデビューした。
今にして思えば、運が良かっただけなのだろうが、私はどんどん売れていった。
ランクDになるのに一年もかからなかった。
10:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 18:57:37.21 ID:q6OJlgc60
あの日みんなで出た中野サンプラザ、次には単独ライブの会場になった。
その次は全国ツアーの会場の一つになった。
歌ったソロ曲は着メロのランキングに年間で入り続けて、有線大賞の新人賞も貰った。
1次の年にはランクCに上がるものだと、事務所のみんなやファンのみんな、それに私も思っていた。
だけれども、それから10年間私はDランクに居続けている。
11:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 18:58:21.20 ID:q6OJlgc60
仕事の種類も変わってきた。
あんなに出してたCDは、年に一回になり、そのタイミングで一日だけライブをする。
それもどんどん歳を重ねるたびにトークパートが増えてきている。今では7:3だ。
内訳はトークが7で、歌が3だ。
オリコンなんて夢のまた夢。
12:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 18:59:30.19 ID:q6OJlgc60
今の私の仕事は、ラジオのパーソナリティ。
アイドルやら芸人やらのやるオールナイトなんちゃらみたいな華々しいのではない。
お昼時に流れる、トラックの運転手さんと床屋さんで流れてるそんな日常の中にあるラジオのパーソナリティ。
そして雑誌のコラムニスト。
多いのが大体スマフォのアプリとか、たまに家電とかのをつらつらと。
13:名無しNIPPER[sage]
2018/02/26(月) 19:00:25.25 ID:q6OJlgc60
「25歳」
私の年齢なわけだけれども、他の25歳はどうしてるのだろうか。仕事で順調にキャリアを積み重ねていってるところだろうか。
もう結婚して主婦やってたり、お母さんやってたりするのだろうか。
私も仕事で積み重ねていってる、と言ってくれるだろうか。
でもそれは「アイドル」としてじゃない。
14:名無しNIPPER
2018/02/26(月) 19:00:36.66 ID:QYi0BqtSo
よければ一行空けながらお願いしたい
仕様ならあれだけども
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