星梨花「試されている迷路の中」
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21: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:36:19.83 ID:l4IqRebF0
 その言葉は今の私には鉛よりも重く、そしてナイフよりも鋭く私の胸に突き刺さりました。冷汗が止まりません。必死に何か言い訳を考えていると、静香さんの方から切り出してくれました。

「初めてクレシェンドブルーを結成した時、私は失敗してしまったの。その後、我にもなく『お願いします、もう一度チャンスをください!』なんて柄にもなく祈ったら、ユニット結成当日に戻ったの。幸運だと思ったわ。そこからは本当に色々な作戦を考えて、ありとあらゆる対策を講じたわ。まあ、全部失敗だったんだけどね」

 驚きました。まさか静香さんまで、あの終わりのない迷路に迷い込んでいたなんて。
以下略 AAS



22: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:37:35.87 ID:l4IqRebF0
「ループの途中で少しだけ不可解なことがあって、星梨花の行動だけが毎回違うの。最初はたまたまってことで割り切ってたけど、今回のユニット辞退の件で確信したわ」

 静香さんも一人で頑張っていたんだ。私は開いた口が止まらないのと同時に、運命から逃れようとしていた自分を恥じました。

「今回もきっと失敗すると思う。私ね、この次がダメならもうやり直すのはやめようと思ってるんだ。私も必要以上に優しくしたり、厳しくしたりしたんだけど、最後の一回は自分の心のままにやってみようと思うの。そうしたら……、きっと後悔もないから」
以下略 AAS



23: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:39:36.35 ID:l4IqRebF0
 私は知りませんでした。静香さんがこんな覚悟を内に秘めていたなんて。きっと静香さんは次の一周に全てをぶつけるつもりでいるんでしょう。私は、結局何も決めれないまま焦りばかりが増して、そして最後の一周を迎えました。


24: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:40:32.65 ID:l4IqRebF0

 もう慣れたものです。この日の部屋の物の配置、気温、日差しの角度などすっかり体で覚えてしまいました。準備万全でいつでも劇場に行くことができます。ただ、心の準備だけは今も整わないままでした。

 劇場に行って、プロデューサーさんとクレシェンドブルーの皆さんとお会いしました。前回での言葉通り、静香さんの目は覚悟を決めた人のものでした。それに対して私はただ焦燥感だけを募らせるばかりで、前の周などと比べても出来はひどく悪いものでした。



25: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:41:29.91 ID:l4IqRebF0
 静香さんが必要に配慮をしなくなったため、問題は割と早くに起こりました。原因は私が大幅に予定よりも遅れていること。志保さんが一週目同様に怒りを露にします。すかさず、静香さんや、茜さん、麗花さんがフォローに回ってくれますが、結果的に志保さんの火に油を注いだにすぎませんでした。

そこからは標的が私から逸れて、静香さんとの口論になりました。ああ、またです。私も静香さんもこんなことがしたくて何週もやり直してるんじゃないんです…… 私の中で、焦りや後悔、苛立ちがごちゃ混ぜになってパンクしそうです。もう嫌なんです。こんな光景を見るのは。みんなの苦しそうな顔しか見れないのは。



26: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:41:59.93 ID:l4IqRebF0



「もういい加減にしてください!!」

以下略 AAS



27: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:42:39.47 ID:l4IqRebF0
 散々うるさかったレッスン場が一気にシンと静まりました。

「全部私が悪いんです! 私の物覚えが悪いから! 私のお父さんが厳しいから! なのにっ! 私のせいで皆さんまで怒ったりしたら……、嫌、です……」

 レッスン場にいる人みんなが私の方を向いています。今まで人目に晒されることは少なくありませんでしたが、このような形では初めてでした。
以下略 AAS



28: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:45:13.63 ID:l4IqRebF0
「私……、もっと頑張ります! 一生懸命練習して、皆さんの迷惑をかけないように、いっぱい練習します! 皆さんが笑ってくれるなら私……、門限を破っちゃう、悪い子にもなります!!」

 自分でも何を言っているのか分からないです。顔をぐちゃぐちゃにして全然かっこよくなくて。でもこの感情のまま叫んだら、案外スラスラと出てくるものです。こんな気持ちは初めてでした。



29: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:46:01.63 ID:l4IqRebF0
 皆さんを黙らせてしまい、私も少し冷静になって困り始めていたちょうどその時、プロデューサーさんが助け船を出してくれました。

「星梨花が声を上げるなんて珍しいじゃないか。でも、ちゃんと伝わったんじゃないか? 星梨花が思っていること」

 改めて仲間の顔を見ます。顔を見ただけで、ちゃんと伝わったって分かりました。
以下略 AAS



30: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:46:54.59 ID:l4IqRebF0
「ごめんね、星梨花がそんなこと思ってたなんて知らなかった。星梨花の気持ち聞けて良かったよ」

「あなたにそんなところがあるなんて知らなかったわ。まあでも、今の星梨花の方がやりやすいかもね。言い過ぎたのは……、ごめんなさい」

 続いて茜さん、麗花さんからも一言「ごめん」と言われました。みんなの顔は少し綻んでいるように感じました。悪いことをしたのは私なのに……、変な気分です。
以下略 AAS



31: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:47:29.84 ID:l4IqRebF0
 それから流れるように月日は経過しました。それは決して楽な道のりではありませんでした。お互いを仲間として、ライバルとして認識して、たとえ雨に打たれながらでも激しくぶつかり合いました。このようにお互いがお互いを刺激し合えばし合うほど、絆が深まっていくことが感じられました。いつしかメンバーの顔には自信と覚悟が浮かんでくるようになりました。

 そして迎えた本番一週間前、最後の全体練習が行われました。私も驚くほどレッスンは滞りなく進み、一週間を残して非の打ちどころがない出来栄えでした。レッスンの先生からもお褒めの言葉をいただきましたが、すぐに仲間の間では次いつ自主練するかの話になり、結局最後の全体練習とはならなさそうですね。



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